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小説 『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』 村上春樹 [小説]

長い間放置状態の当ブログでしたが、生活環境が変わり再び自分の時間が取れるようになりましたので更新を再開します。
マイペースで更新していきますのでよろしくお願い致しますm(_ _)m

更新再開一発目は、先日発売されたばかりの村上春樹さんの新作です。
若干のネタバレを含みますのでご注意下さい。

良いニュースと悪いニュースがある。
多崎つくるにとって駅をつくる事は、心を世界につなぎとめておくための営みだった。
あるポイントまでは……。
(作品紹介より)

全体的に読みやすくすんなりと作品世界に入っていけます。独特の奇想天外さや大掛かりな仕掛けはなりを潜め、主人公の現実が着実に描かれていて、彼の喪失と孤独、再生への巡礼に伴う痛みをひりひりと感じました。
二十歳の時に突然訪れた一方的で理不尽な別離。ずっと続くと思われていた完全で親密な関係が突然断ち切られ、絶望と孤独から死を願った日々。そこからとりあえず立ち直り、以来他人と深く関わる事を避けてきた彼は、自分を「色彩が無い」「空っぽだ」と評しています。けれど本当に彼は色も中身も無い人間なのか? 鉄道会社に努め子どもの頃の夢だった駅舎の設計に携わり、信頼の高い仕事ぶりを見せる彼が空っぽなんかではないと感じます。彼はただ、真相を知り受け入れる事、言い換えれば中身を入れる事が怖かったのだろうと思います。
36歳になった彼は、恋人からの強い勧めで過去の真相を知るため動き始めます。真相を知り過去を受け入れるための巡礼は、彼にとって過酷な真実を突きつけます。
一心同体であるかのように完全に調和した5人の親友達。男3人と女2人、それは危ういバランスで保たれていたものでした。主人公が理不尽に切り離された真相は、重い現実と親友達のうち1人の不可解な死という更なる喪失を含んでいて、人は他人と完璧に調和し続ける事を許されていないのかもしれないと思いました。
この巡礼で一通りの真相を知り新たな喪失と混乱や傷を負っても、目の前に続く現実を生き続けなくてはいけない。そして彼の前には恋人がいて、巡礼の後一層強く彼女を求めるようになります。他人との関わりを避けてきた彼が共に生きたいと願い欲する恋人ですが、そこにも喪失への現実的な不安が存在します。彼は恋人を失わずに済んだのか、どんな未来があるのか、描かれる事無く物語は幕を閉じます。けれど過去を知り受け入れるための旅をした彼の未来には、微かな希望が見えるように感じました。

謎のままの出来事も多いです。
大学時代、かつての親友以外に始めて心を開いた年下の友人にまつわるエピソードは一体どんな意味があったのでしょう。静かに主人公の人生から消えていった彼の存在意義と、彼が主人公に語った奇妙な話。死が絡む彼の話、また物語中に語られた「多指症」と呼ばれる6本指についての言及も絡めて色んな考察が出来そうです。断ち切られた親友5人組。新たな1人の友人。6本目の指。『巡礼』のレコードを残し消えた友人。「5本でちょうどいい」という台詞はちょっと意味深に響きます。
読み返す度に新たな発見があり考えを巡らせ、一度の読了では読み取りきれない深さもこの作品、ひいては村上春樹作品の魅力だと思います。

この作品は主人公の巡礼=再生の物語であり、彼の再生はまだ完了していないのだと思います。だから村上さんは彼をここまで導き、「後は自分でいきなさい」と手を放したのではないでしょうか。誰も生き方を最後まで教えてはくれません。
「すべてが時の流れに消えてしまったわけじゃないんだ。」
ラストの主人公の言葉が印象的でした。

村上さんの独特な表現や人物描写、各作品によく取り込まれるモチーフ等など、読み手を選ぶ要素を含んではいますが、静かに澄んでいながらも底知れない力を持っています。ずっと手元に置いて読み返したい作品です。


色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2013/04/12
  • メディア: 単行本



追記は管理人の近況です。
興味のある方はどうぞ。



2011年11月に旦那がフランチャイズ契約を交わして一緒に始めたお店。売上げは好調で順調に運営していました。
しかし、1年が経過した昨年11月。旦那が体調を崩してしまいました。けれど根が真面目な旦那は周りが散々「休め」「病院へ行け」と言っても聞く耳持たず頑張り続け、年が開け1月の中旬についに入院してしまいました。
私が店長を代行し、パートさんと旦那の妹さんにも協力してもらって何とか運営を続けていましたが、医者からも会社からも「本人の復帰は無理」という判断が出ました。
そして、年度末という切りのいいタイミングという事もあり3月31日で契約を解除する事になりました。
2013年3月31日。棚卸しを実施し、直営店になるので社員さんに引き継ぎをして私達の運営を終わらせました。

旦那は3月下旬に退院し現在自宅療養中です。
私も旦那の入院から2ヶ月ちょっとの店長代行で疲れきっているので少しゆっくり休むつもりです。それから2人で歩きだしたいと思います。

お店での経験や出会えた人達は大きな財産となりました
また、それまでは旦那の実家で顔を合わせても挨拶程度しか交わさなかった旦那の妹さん夫婦との繋がりが深まり、旦那との仲も強いものになりました

まだまだこれから大変だけど、ちょっと休んでからまた頑張っていきたいと思います。

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コメント 2

駅馬車

大変だったんだね。
お店が順調だっただけに残念ですけど、体調が悪くなったならしかたないかな。

私も体調には気をつけないとなぁ、と改めて思いました。
地震からここ2年ほど激務が続いていたから、周りからは休めって言われたたし。
やっとここ一ヶ月ぐらいで週末は休めるようになりました。
それまでは月イチだったからね(^^;

暫く体力的にも精神的にも休んで、ゆるゆる再スタートしましょ(^^)


by 駅馬車 (2013-04-22 10:43) 

リュカ

>駅馬車さん
ありがとうございます。
お店も楽しかったけどハードだったし、旦那が体調崩してからはもっと大変でした><
駅馬車さんも激務だったんですね><
何をするにも身体が資本ですし、無理は禁物ですね。
しばらくゆっくり休んで、またゆっくりスタートしたいと思います^^
by リュカ (2013-04-26 20:23) 

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