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海外SF『夏への扉』ロバート・A・ハイライン [小説]

1950年代に書かれたタイムトラベル物のSF作品です。
今年春に演劇集団キャラメルボックスで舞台化されました。

ぼくの飼っている猫のピートは、冬になるときまって夏への扉を探しはじめる。家にあるいくつものドアのどれかひとつが、夏に通じていると固く信じているのだ。
1970年12月3日、かくいうぼくも、夏への扉を探していた。最愛の恋人に裏切られ、生命から二番目に大切な発明までだましとられたぼくの心は、12月の空同様に凍てついていたのだ。そんな時、「冷凍睡眠保険」のネオンサインにひきよせられて……。

主人公のダンは発想力豊かで頭の回転も早いのに、世間知らずで人を疑う事をしない人物です。それが仇となって親友のマイルズと婚約を交わしたベルの2人に裏切られ、発明品を奪われるわ会社からは追い出されるわ手酷い裏切りに遭ってしまいます。2人の裏切りは周到に準備されていて、弁護士であるマイルズと根っからの悪女ベルの悪知恵を前に、真っ当な手段では2人の悪事を証明する事ができません。
ダンがもう少し注意深かったら、とじれったくもなるのですが、一度信じた相手を疑わないお人好しな性格が彼の魅力なのだと思います。
自暴自棄になり、冷凍睡眠で現実逃避に走ろうとした酒浸りの日々から一転、生きる希望を取り戻したダンは2人の下へ乗り込み追及するのですが、罠に嵌められ冷凍睡眠場へ送られてしまいます。ここでも周到で迅速なベルの悪どい手際にある意味感嘆させられました。
ダンが目覚めたのは西暦2000年、元いた時代から30年も経った未来でした。ダンは途方に暮れながらも、生きるために奮戦します。職を得て住居を確保し、2000年の社会情勢を知るべく図書館へ通ったり新聞を読み漁り、また技術者としての遅れを取り戻すための勉強も始めます。
愛猫ピートも失い1人ぼっちで、財産も無くしてしまったダンの心を支えたのは、マイルズの義理の娘でダンを慕っていた少女・リッキーの存在でした。大人になったリッキーの消息を追うダンは、継母になったであろうベルによってリッキーが辛い思いをしていないだろうか、今頃は結婚して幸せにしているのだろうかと様々に想いを寄せます。「たとえ誰かと結婚していても、クリスマスカードのやり取りをするくらい構わないだろう?」という旨の言葉に、ダンの純情さをより一層感じました。
また未来で再会したベルはすっかり落ちぶれていて、ダンから奪ったはずの会社もロボットも、財産も無くしプライドだけを手に酒と薬に浸る日々を送るベル。悪人には相応の未来があると知らしめてくれます。
そして2000年のロサンゼルスに自分が開発したロボットが広く普及している事、そして、自分の頭の中にしかなかった製図ロボットが、自分の考えた通りに開発されている事を知ります。しかもそのロボットの特許権を持つのは、自分とそっくりな名前の「D.B.ディヴィス」という人物。こいつを作ったのは一体誰なのか? それを探る過程の中でダンは同僚からタイムマシンの存在を聞かされます。軍事機密とされるタイムマシンの話を無理矢理聞きだし、ダンはマシンを開発したトゥィッチェル教授の下へ向かいます。ダンは教授に上手く取り入り、時に彼を賞賛し時に挑発し、まんまとタイムマシンを起動させ元の時代に戻る事に成功しました。その知恵をどうしてマイルズ達には働かせられなかったんだとちらっと思いましたが、信じていた人物と利用しようとして近付いた人物では無理もない事ですね。

ここまで、謎と伏線を散りばめながら進んできた物語が一気に動き出し、全てを失ったダンの逆転劇が始まります。
もっと先の未来へ行ってしまう可能性もあったのに無事に元の時代へ戻る事ができ、「未来から来た」というダンを信用し力を貸してくれるサットン弁護士夫妻との出会い。いささか出来すぎてる感もありますが、ダンの人柄やこれまでの不遇とその後の奔走ぶりを見てきているので、すんなり状況を受け入れダンを応援したくなります。
それまでの謎だった事柄を整える為にまた奔走するダン。全ての準備を整えた彼はリッキーとある約束を交わし、今度はピートと共に30年間の冷凍睡眠に入ります。もう一度目を覚ました30年後の世界で手にしたのは、これまでの苦労が全て報われる幸せな生活。厳しい冬を乗り越え「夏への扉」を見つけた彼の充実したその後の生活に心温まりました。

「なんどひとにだまされようとも、なんど痛い目をみようとも、結局は人間を信用しなければなにもできないではないか。まったく人間を信用しないでなにかをやるとすれば、山の中の洞窟にでも住んで眠る時にも片目を開けていなければならなくなる。いずれにしろ、絶対安全な方法などというものはないのだ。」
(本文より抜粋)
ダンが1人ぼっちの未来で絶望しなかったのも、困難を乗り越え幸運を掴み取ったのも、人を信用するというごくシンプルでありながら非常に難しい信念をダンが貫いていたからだと思います。
人を信じる事、希望を失わず実現に向けて努力する事、生きていく上で大切な事を教えてもらえました。

複雑に入り組んだプロットと全ての伏線が収束していく様、そしてダンの爽快な逆転劇、希望を持って未来に進む力をくれるお勧めの作品です。


夏への扉 (ハヤカワ文庫SF)

夏への扉 (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: ロバート・A. ハインライン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2010/01/30
  • メディア: 新書



nice!(2)  コメント(2) 
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くにちゃん

200記事おめでとうございます!
by くにちゃん (2011-06-04 19:42) 

リュカ

>くにちゃんさん
レス遅くなりましたm(_ _)m
気が付けばそんなに書いていたんですね@o@
いつもniceとコメントありがとうございます^人^
by リュカ (2011-06-07 22:34) 

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