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小説『ある閉ざされた雪の山荘で』 東野圭吾 [小説]

'92年に発表された東野圭吾さんの作品です。文庫化は'96年。

早春の乗鞍高原のペンションに集まったのは、オーディションに合格した男女7名。これから舞台稽古が始まる。豪雪に襲われ孤立した山荘での殺人劇だ。だが、1人また1人と現実に仲間が消えていくにつれ、彼らの間に疑惑が生まれた。はたしてこれは本当に芝居なのか?驚愕の終幕が読者を待っている!

タイトルからして直球のクローズド・サークルミステリーですがそこは東野さん、安直な孤島物では終わりません。
凄腕で偏屈な演出家の指示によって、豪雪で山荘に閉じ込められたという設定が作られ、外部と連絡を取ると合格が取り消されるという事態に、役者の卵達は必然的に閉ざされた雪の山荘という状況に置かれる事になります。そして殺人劇の犠牲者となった者は稽古場である山荘からも姿を消していくのですが、稽古にしては不自然な状況が起こり、「これは本当に舞台の稽古なのか?」と役者達は次第に恐怖に陥れられていき、読み手も「これは稽古じゃなく現実の殺人なんじゃないか?」と疑いを抱くようになります。これは現実なのか虚構なのか? クローズド・サークル特有の緊迫感が増していく様にページをめくる手が止まりませんでした。
ストーリーは参加者の内の1人である久我和幸の視点と、客観的に状況を伝える三人称での描写で交互に展開されていくのですが、読み進めていく内にどんどん東野さんの策にはまっていきます。古典ミステリーをこよなく愛しながらも、そのお約束を打破する東野さんの手腕が光ります。
探偵役となる久我和幸、彼はオーディションに合格した7人の中で1人だけ違う劇団に所属している人物で、それ故に他の6名に対して仲間意識が無く、上から見下すような視点で語っています。自信家で我が強い彼の語りに多少苛立つのですが、他の6名と立場が異なる彼は探偵役として最適で、また緊迫感の増して行く展開の中で冷静な探偵役であろうとする彼の姿にだんだんひき込まれていきます。
そして明らかになる真相にはただただ驚きでした。ネタバレになるので書けませんが、ミステリーとして使い古されている「閉ざされて孤立した館」というシチュエーションの使い方と、作品に仕掛けられたトリックはお見事です。すっかり騙されてしまいましたが、悔しさよりも爽快感の方が断然大きいです。
事件の動機も生々しく人間味が溢れていて、愛と憎しみの深さ、そして芝居に懸ける彼らの強い情熱に心打たれました。
事件の中心人物である女性の言葉、そしてそれを聞いた久我の言動にもジーンとします。嫌味な性格として描かれた彼ですが、最後に見せた温かさに好感度上がりました。

作品に仕掛けられたトリックや、作中で語られるミステリーの「十戒」など、東野さんのミステリーへの愛情も感じられます。
緊迫感と愛憎渦巻く人間模様、驚きのトリック、そして爽やかな読後感のあるお勧めの作品です。




ある閉ざされた雪の山荘で (講談社文庫)

ある閉ざされた雪の山荘で (講談社文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1996/01/11
  • メディア: 文庫



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コメント 3

駅馬車

閉ざされた館、名探偵コナンでも使われるシチュエーションですね(^^;
でも、面白いということですから、古い舞台装置でも演出次第でどうにでも出来るということなんでしょうね。

注意しているとテレビのどのミステリーの原作も東野圭吾さんだったりしますね(^^)


by 駅馬車 (2011-05-18 15:51) 

くにちゃん

ナイス500おめでとうございます^^
by くにちゃん (2011-05-18 22:17) 

リュカ

レス遅くなりましたm(_ _)m

>駅馬車さん
確かにコナン君にもよくあるシチュエーションですね^^
使い古されているアイデアをいかに魅せるか、書き手の腕の見せ所ですね^^

東野さん原作のドラマ多いですね。
イメージ崩れるのがイヤであんまり見ないですが、上手く映像化されてるのをみかけると嬉しくなります^^

>くにちゃんさん
おぉ!いつの間にナイス500達成していたんですね!
いつもありがとうございます^^
by リュカ (2011-05-24 23:10) 

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