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小説『夜明けの町で』 東野圭吾 [小説]

'07年に発売された東野圭吾さんの作品です。文庫化は'10年。

不倫する奴なんて馬鹿だと思っていた。ところが僕はその台詞を自分に対して発しなければならなくなる――。
建設会社に勤める渡部は、派遣社員の仲西秋葉と不倫の恋に墜ちた。2人の仲は急速に深まり、渡部は彼女が抱える複雑な事情を知ることになる。15年前、父親の愛人が殺される事件が起こり、秋葉はその容疑者とされているのだ。彼女は真犯人なのか? 渡部の心は揺れ動く。まもなく事件は時効を迎えようとしていた……。

15年前の事件よりも、馬鹿にしていた不倫の恋に落ちた渡部の苦悩と葛藤を中心にした人間ドラマの要素が大きく、ミステリーを期待していると少々物足りないかもしれません。
それでも、「もはや男に分類されなくなった」年代になった渡部が恋に落ちて浮かれる様と、妻と幼い子どもを思い苦悩する姿はリアルです。不倫を扱ってはいますが、決して男の妄想で美化された馬鹿げた綺麗事に終わる事無く、家庭を壊す気はさらさら無いくせに愛人の前では誠実な男を気取る渡部の滑稽さと、それを憎みきれない生真面目さ、始めは「家庭を大事にして」と言いながらも、渡部の誠実な言葉にだんだんと態度が大きく厚かましくなっていく秋葉の姿、東野さんの観察眼が光る描写です。
知的でプライドが高く、駆け引き上手な秋葉。あまり魅力的な女性とは感じなかったのですが、彼女が抱える過去と謎めいた言動には惹き付けられます。「私を信じてほしい。」と言いながら、「時効の日が過ぎたら、全てを話せる。」と語る秋葉。読んでいる印象は「秋葉はシロなんだろうな」と思わせつつも、それを実証できるものが何もないばかりか、自分が犯人だと匂わせるような言動を取る秋葉にすっかり翻弄されてしまいました。
明らかになった事件の真相は、「秋葉をシロだとするならそれしか無いだろうな」というもので、いつもの東野さんらしい驚きはあまり無いように思います。ただ、15年もの間真相を隠し続け、そうせざるを得ない状況へ追い込んだある人物を憎み続けた秋葉の心根には感服しました。
そして全てが終わり、家へ帰りついた渡部が目にしたもう一つの真実。
そうだよ、一番苦しんだのはこの人なんですよね。女は怖い、そして強いんだと感じます。

「赤い糸なんてものはないんだ。(中略)赤い糸なんてものは二人で紡いでいくものなんだ。別れずにどちらかの死を看取った場合のみ、それは完成する。赤い糸で結ばれてたってことになる。」
渡部のアリバイ作りに渋々協力しながらも「早まった事をするな」と諭す友人・新谷の言葉です。これだけ見てもうまい事を言うなと思ったのですが、番外編として収録された『新谷君の話』と合わせて読むと、深みの増す言葉です。

余談ですが、この作品は東野さんがサザンオールスターズの楽曲『LOVE AFFAIR~秘密のデート』にインスパイアされて書かれたものだそうです。
1つ前の記事にこの楽曲を収録したアルバムについて書いていますので興味が湧きましたら合わせてご覧下さい。
以上、宣伝でした(笑)


夜明けの街で (角川文庫)

夜明けの街で (角川文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2010/07/24
  • メディア: 文庫



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くにちゃん

昨日は注射しても痛みとれませんでしたが、今日はだいぶ痛み軽減されました。
by くにちゃん (2011-03-02 13:15) 

リュカ

>くにちゃんさん
レス遅くなりましたm(_ _)m
痛み軽減されたとの事で何よりです。
お大事にして下さいね^^
by リュカ (2011-03-07 20:46) 

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