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小説『白銀ジャック』 東野圭吾 [小説]

実業之日本社文庫から出版された東野圭吾さんの作品です。

「我々は、いつ、どこからでも爆破できる。」
年の瀬のスキー場に脅迫状が届いた。警察に通報できない状況を嘲笑うかのように繰り返される、山中でのトリッキーな身代金奪取。雪上を乗っ取った犯人の動機は金目当てか、それとも復讐か。
すべての鍵は、一年前に血に染まった禁断のゲレンデにあり。
今、犯人との命を賭けたレースが始まる。

最初から文庫で発売されるのは非常に助かります(笑)
スキー場に爆弾を仕掛けたという脅迫メールと、不可解な犯人の指示。利益を優先する経営陣と、安全性を優先する現場の管理者の対立、そして今尚従業員の心に影を落とす一年前の大事故。事故があってから閉ざされているゲレンデ側の町は廃れていくばかり、どうにかゲレンデを開放してほしいと願い出る町長を始めとする町の人々。事故に遭って心に傷を負った息子に現実と向き合わせたいと考えスキー場を訪れた入江父子。
事件と平行して描かれる閉ざされたゲレンデを巡る物語は、意味深なタイミングで現れる様々な登場人物の思惑と絡んで読み手を惹き付けていきます。
スキー場を脅迫する動機を持つ人物は様々に考えられるのですが、誰を犯人と想定しても違和感が残ります。犯人と事件の真相を予測する伏線があちこちに張られているのはわかるのですが、一番強い動機を持つ入江はどう見てもシロなのに中盤で灰色に見えてきたりなど、二転三転する状況が犯人の特定をさせてくれず、スピーディに展開する事件に最後まで目が離せません。

明らかになった事件の真相は予想を超えたいくつもの複雑な背景があり、脅迫状の意味とそこに込められた想いに深く納得、そして事件の発端となった人物のその後の行動には強い憤りを感じました。
そしてクライマックスで明らかになったゲレンデに関するもう一つの事実と、それに対する登場人物の言葉に胸を打たれます。東野さんの、人に対する優しい目が向けられているシーンだと感じました。

ウィンタースポーツを愛する登場人物達の熱い気持ちに共鳴し、ちょっとしたロマンスもあり、スキー場経営の裏側や、心の傷などただの事件で終わらないテーマ性もあり、東野さんらしい重厚感を求めてしまうと少しもの足りませんが、しっかりと楽しませてくれる作品です。


白銀ジャック (実業之日本社文庫)

白銀ジャック (実業之日本社文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2010/10/05
  • メディア: 文庫



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