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深作欣二監督『魔界転生』 [映画:DVD]

山田風太郎さんの原作小説を、1981年に深作欣二監督が映画化した作品です。
何度かリメイクもされています。

寛永の時代のある夜、島原の乱で殉死したはずの天草四郎が再び命を取り戻す。
彼は自分と同じように不本意な死に追いやられた人々を集め、時の将軍家綱に復讐を開始するが、彼ら魔界衆の前に柳生十兵衛が敢然と立ちふさがった。

何と言っても天草四郎時貞を演じた沢田研二さんの妖しい退廃的な美しさがたまりません。
リメイクで天草四郎を演じた役者さんもいいんですが、天草ジュリーの美しさには及ばないのではないかと思います。

怨念でこの世に蘇った天草は無残な姿となった同胞に別れを告げ、徳川に復讐するために仲間を集めます。
最初に訪れたのは、壮絶な最期を遂げた細川忠興の正室・細川ガラシャ。攻め落とされ焼け落ちる屋敷に取り残され、家臣に自らを討たせる事で自害にかえた(ガラシャはキリシタンで、キリスト教で自殺は大罪として禁じられているため)彼女は、自分を置き去りにした忠興を恨んで天草と行動を共にします。
このガラシャを演じた佳那晃子さんもまた妖艶で惹き付けられます。天性の美貌と転生して得た魔界の力を発揮し、巫女に扮して時の将軍・徳川家綱(細川忠興と瓜二つ)に取り入り政治を乱すのですが、美しい裸身を惜しげもなくさらして家綱をたぶらかす様は官能を超えて芸術的ですらあります。
忠興の側室の存在に心を痛め、転生した後は「永遠の愛」を願いながらも、人の心を無くし魔性へ堕ちていく姿は、生前よりもさらに壮絶で悲しいものでした。

また天草は、死ぬ前に柳生但馬守と刃を交えたかったと嘆く年老いた宮本武蔵、煩悩を捨てきれない己が身を悔いた僧・宝蔵院胤舜、里を滅ぼされ復讐を願った伊賀忍者の青年・霧丸を転生させ仲間に引き入れます。
さらに、ガラシャ扮する巫女に不審を抱き、立ちはだかった宝蔵院胤舜を斬り伏せた柳生但馬守宗矩(十兵衛の父)をも、病に倒れたその隙に「息子と真剣勝負をしたかった」という無念を突いて転生させてしまいます。
人の心の迷いや隙を突き、転生を一度は拒んだ武蔵や宗矩を仲間に引き入れてしまう天草の巧みな話術と、妖しく光る金色の瞳は完全に魔の者のもので、同胞達の遺体を前に嘆き、徳川への復讐を誓った時の面影はほとんどありません。
天草の呪いにより穀物は実らなくなり、農民達は困窮してしまいます。常に天草の傍にいて呪詛の儀式を手伝っていた霧丸は、一揆で親を無くした娘と出会い惹かれ、更に自分達が行っている事が彼女のような悲しみを生む事に気付き悩み始めます。若く美しい霧丸を気に入っていた天草は、霧丸が人間の娘に惹かれている事に気付くと、「欲するのなら強引に奪えばいい」とそそのかし、文字通りの「口封じ」で苦悩する霧丸の口を封じてしまいます。この男性同士のキスシーン、2人とも死から蘇った魔の者という設定も相まって、何とも妖しい雰囲気に満ちた美しいシーンになっています。映画公開当時もかなり話題になったそうですね。結局、人の心を捨て切れなかった霧丸は転生を受け入れた事を悔いて、慕っていた柳生十兵衛に自分を殺してくれるよう頼みました。が、十兵衛は霧丸の願いを拒み運命と戦うよう告げます。十兵衛の厳しくも優しい一面が見えるシーンです。
一方、天草は困窮した農民達を扇動し江戸への攻撃を開始します。困窮の原因が天草にあるとは露ほども知らない農民達は、扇動に乗り怒りに駆られるまま江戸城を目指します。その途中、農民を率いる天草が目にしたのは、魔界の者となった身を悔い娘と駆け落ちしようとしていた霧丸の姿でした。「たわけが!」と吐き捨て霧丸を殺した天草ですが、ただ思い通りにならなかった部下を切り捨てただけでなく、お気に入りのものを失った天草の、最後の人間じみた感情が混じっていたように感じました。

一方の十兵衛は宮本武蔵が自分を狙っている事、霧丸を救えなかった事を知ると、天草達を討つべく妖刀村正を入手すべく、刀鍛冶の名匠・村正の下を訪れます。十兵衛の説得に応じ病を押して刀を打った村正。完成した刀を手にまずは宮本武蔵と一騎打ち。千葉真一さん(十兵衛)と緒方拳さん(武蔵)の殺陣は迫力満点で目が離せないシーンです。激闘の末に武蔵を討ち倒すと十兵衛は江戸城へ向かいます。
その頃江戸城は火の海になっていました。かつての夫・忠興の名を口にしたガラシャに激昂する家綱と、狂乱したガラシャ。火事に気付いて逃げようとする家綱を捕まえガラシャは炎が燃え盛る階下へと落ちて行きます。家綱と共に狂ったように笑い炎の中へ落ちて行ったガラシャは本望だったのでしょうか……?
そして江戸城へ辿り着いた十兵衛の前に現れたのは、魔に堕ちた父・宗矩。炎の中で刃を交える2人、宗矩は本懐を遂げられ満足だったでしょうが、十兵衛の胸に去来したものは何だったのでしょう。剣の道に生き自分の信じる道を行く十兵衛の振る舞いからはその胸の内を伺い知るのは難しいですが、「父を超える」という人生の大切な一幕がこんな形になってしまった事を強く嘆いただろうと思います。
このシーンの炎、CGではなく本当にセットに火を放って撮影が行われたそうで、炎の中での親子対決はクライマックスに相応しい鬼気迫る緊迫感に満ちています。
父を倒した十兵衛の前に現われた天草は十兵衛も魔界衆に誘いますが、十兵衛はこれを拒絶し天草に挑みます。背後の炎にも負けない熱演を見せる2人、やがて十兵衛の刀が天草の首を刎ねたのですが、天草は自らの首を抱えて高笑いし「人の世がある限り私は必ず戻って来る!」と言い残して消えていきました。
続編を思わせるラストシーンですが、現在にいたるまで続編の制作は無いようです。個人的には続編は作らない方がいいように思います。

荒唐無稽でオカルトめいた伝奇ロマンとバイオレンス、美しさを伴ったエロティシズムの中に、愛や憎しみ、欲、迷い、様々な人間の心模様が歴史上有名な登場人物を通してしっかりと描かれています。
そして天草の徳川への復讐心と憎悪は、いつしか人間全てへの憎悪に変わっていたように思います。
天草を始めとする魔界衆は単なる敵ではなく、人なら誰もがなり得る悪の道への可能性を示しているように見えました。
いつの時代にも、悪を生み出すのやはり人なのだと思います。


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yasumi

沢田研二さん、懐かしいですね^^ジュリー♪
この映画、観たことはないのですが、画像検索してみました。
衣装やメイクがすごく似合ってますね。
こんなすごいストーリーだったとは、ビックリしました。
アニメ化して欲しい位、濃厚な内容ですね。
今の時代に撮るなら、GACKTが天草四郎かなぁと思いました^^
by yasumi (2010-11-03 01:42) 

駅馬車

懐かしいなぁ。見ては無いんですがよく覚えていますよ。
この時期のジュリーは一番売れている時期で見ない日はないほどでしたね。

「CGではなく本当にセットに火を放って」という件に思わず笑みが(^^)
当時はCGなんて無かったんですよ。
だから全部アナログの本物でした。


by 駅馬車 (2010-11-04 12:02) 

リュカ

>yasumiさん
あの衣装やメイクが似合うのはこの頃ならジュリーを置いて他にいないでしょうね^^
アニメ化も良さそうですね~!
GACKTさんも妖しくで綺麗な人ですから天草役合いそうですね^^

>駅馬車さん
この頃のジュリー人気って凄かったらしいですね。
もう数年早く生まれたかったとつくづく思います^^

「当時はCGなんて無かった」
あ゛っ……!言われてみればそうですよねA^^;
何も無い所で在るように演技しなきゃいけないCGも大変そうですが、
全部本物を使っての撮影も危険だし大変ですよね。
本物の臨場感にはやはり敵いませんね^^
by リュカ (2010-11-04 22:33) 

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