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少年漫画『MIND ASSASSIN』 かずはじめ [漫画]

'94年から'95年にかけて週刊少年ジャンプで連載されたかずはじめさんの作品です。

Mind Assassin――生き物の頭を外部から触れるだけで、その精神と記憶を破壊できる力を持った暗殺者である。ドイツのナチス時代に創り出され、現在日本、奥森かずいはその力を受け継いだ3代目Mind Assassinであった。
そんな彼が営む奥森医院では、精神・記憶に悩む人達の相談に乗っていた。
――そして今日も、悩める人々が彼の元へ足を運ぶ――

とても静かで深く、悲しいけれど温かい、そんな物語の数々です。
ジャンプ特有のアクションシーンやギャグ展開はあまり無く、ジャンプの中では異色な存在だったように思いますが、人の心や記憶を扱ったこの作品の深いテーマにとても惹き付けられました。

殺人のために創りだされた自身の力をかずいはとても嫌っているのですが、それでも、記憶を壊す事が本当に相談者のためになるのならば力を行使します。
心の傷、重い過去、癒し、再生、人間の弱さと強さ、優しさ、切なさが詰まった人間ドラマ、周囲の人達に慕われるかずいの温かい人柄と、力の使い方に苦悩する優しい姿に心打たれました。
また、ある凄惨な過去からかずいが記憶と精神を壊して引き取った少年・虎弥太とかずいの絆にもジーンとします。実年齢は18歳でありながら心は8歳の虎弥太。かずいのマインドアサシンとしての姿を知っていても、かずいの苦悩を察してかずいを慕い、時に子どもらしい悪戯や発言でかずいを翻弄する無邪気な姿に、かずいも読み手もほっと温かい気持ちになれます。暗殺のための力を持つかずいが闇に引き込まれないでいられるのは、虎弥太の存在に依る所が大きいのだと感じました。
そして、人の心を踏みにじる悪人には力をもって制裁を加えます。そこには彼らへの怒りはもちろん、自分の元を訪れた相談者を救えなかった悔恨の念が強く込められていて、力を嫌悪しながらも容赦なく制裁を加える姿と、決して自分の行為を正しいとは微塵も思っておらず、「こんな事をしても誰も救われないけれど、自分に出来る事はこれしかない」と悲しげに言う姿に胸を締め付けられました。

どのエピソードも魅力的なのですが、1番好きなエピソードは1巻に収録されている『#7 幸福者』です。
ある事情で会社を辞めてから変貌してしまった夫を信じて愛し続け、苦悩の末にかずいに記憶と精神を破壊される事を望んだ妻、そして意識を無くした妻と彼女の想いを目の当たりにして自分の過ちに気づき、彼女の意識を取り戻すため誠心誠意尽くした夫の物語。
本当の幸せや愛情って何だろうと考えさせられ、
また不器用な夫の愛情と、変貌した夫を信じ愛し続けた妻、2人の迎えた結末に涙が溢れました。


ごちゃごちゃ描き込まれていない透明感のある絵柄と、静謐で温かくも切なく深いストーリーが魅力的な作品ですが、この静謐さが少年ジャンプの方向性や読者層と合わなかったようで、連載期間が短かったのが残念です。
けど作者のかずはじめさんは自身の公式サイトで、「『Mind Assassin』はライフワークとして描き続けたい」という趣旨の発言をされているので、いつかまたかずいと虎弥太に会える日が来るといいなと思います。

ハッピーエンドばかりではない生きる事の切なさ、特殊な力を持つ故の苦悩、簡単には量れない罪と罰、人の心の強さと弱さ等など、深いテーマに踏み込んだ完成度の高いお勧めの作品です。


MIND ASSASSIN 1 (ジャンプコミックス)

MIND ASSASSIN 1 (ジャンプコミックス)

  • 作者: かず はじめ
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1995/05
  • メディア: コミック



MIND ASSASSIN 1 (集英社文庫―コミック版)

MIND ASSASSIN 1 (集英社文庫―コミック版)

  • 作者: かず はじめ
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2005/04/15
  • メディア: 文庫



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