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小説『流星ワゴン』 重松清 [小説]

'02年に刊行され吉川英治文学賞を受賞した重松清さんの作品です。
'05年に文庫化されています。

死んじゃってもいいかなぁ、もう……。
38歳、秋。その夜、僕は、5年前に交通事故死した父子の乗る不思議なワゴンに拾われた。
そして―自分と同い年の父親に出逢った。時空を超えてワゴンがめぐる、人生の岐路になった場所への旅。
やり直しは、叶えられるのか―?

リストラ、妻の裏切り行為、息子の中学受験失敗と家庭内暴力。どん底の日々に生きる気力を無くした主人公・一雄は、終電後の駅のロータリーでオデッセイに乗った橋本さんと8歳の息子の健太君に出逢いました。自分達は5年前に交通事故を起こして死んだのだと告げる彼らは、「(一雄にとって)大切な場所へと連れて行く」と言ってオデッセイを走らせます。
行き着いた先は、妻・美代子の裏切りの場面や息子・広樹が追い詰められていく様、家庭が崩壊してゆくいくつかのきっかけを目の当たりにし、何とか過去を変えようとあがく一雄。特に、受験に失敗し荒れてしまった広樹を救おうとあがき、そしてかつては気付けなかった広樹の気持ちと彼を取り巻く状況を知ります。けれど現実は変わる事無く、待ち構えているどん底の日々は変わりません。
ならば何故、橋本さん親子は一雄を過去へ連れて行くのか。重い後悔を背負った人を乗せて過去へ旅するのだという橋本さん。
「分かれ道はたくさんあるんです。でも、その時は何も気付かない。(中略)気付かないまま、結果だけが、不意に目の前に突きつけられるんです。」
という橋本さんの言葉が印象深く響きます。悲劇は突然起きるものというわけではないのかもしれません。
そしてどこからともなく現れた38歳の時の姿の父・忠雄。短気で気性も言葉遣いも荒く、子どもの頃の一雄にとっては怖い存在だった父。次第に父への嫌悪感が増し、分かり合えないまま故郷を出た一雄と、末期がんで余命いくばくもない忠雄。オデッセイでの過去への旅の中で、忠雄は自分を「チュウさんと呼べ」と言い、親子でありながら同い年の男同士、親友よりも深い絆で結ばれる朋輩として接しようとします。子どもの頃は言えなかった父への気持ち、知り得なかった自分への愛情、豪放な父の隠されていた弱さ、昔と変わらない父の態度に反発しながらも、同じ年になって同じ視点に立って初めて"親"という存在が完全無欠なものではないという事に気付いていく様と、嫌悪していた父を理解し受け入れていく過程にジーンと心動かされます。そして忠雄がチュウさんとして接し息子の本音を初めて聞き、すれ違っていた想いに気付きつつも変わらず子どもの事を想う気持ちに胸を打たれました。

そして、これまでにも何人もの人をオデッセイに乗せて過去へのドライブを続けている橋本さん父子。人の良さそうな橋本さんと生意気だけど憎めない健太君、一雄が羨ましさを感じる程仲のいい2人の間にもある深い後悔があります。事故のきっかけを作ってしまったのは自分なんだと自嘲気味に笑う健太君に胸が痛みました。
そしてこの永遠に続くドライブから健太を解放してやりたいと、健太は成仏して生まれ変わって欲しいと願う橋本さんの想いと、それに対して健太君が出した答えに涙が止まりませんでした。

過去への旅を終えてどん底の現実に戻ってきた一雄ですが、彼の心にはもう死を願う気持ちはありません。
大団円ではないけれど、希望を見出せるラストシーンでした。

過去をやり直すことは出来ないし、どんなに過酷な現実でも生きていかなきゃならない。今を生きこれからの未来を変えていく力をくれる作品だと思います。

そしてこの作品は来年、演劇集団キャラメルボックスによって舞台化される事が決まりました。
3組の父子の物語、どんな舞台になるのか楽しみです。
が、一雄の妻・美代子の行為をどうするのか気になります。
不特定多数の男性とその日限りの関係を、お金ではなく自分の欲求を満たすために持つ-病気としか思えない彼女の行動。キャラメルボックスの作風に全くそぐわないですし、ばっさりカットでしょうか。
けど、彼女の行為も一雄のどん底の現実の一部ですし……。



流星ワゴン (講談社文庫)

流星ワゴン (講談社文庫)

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2005/02/15
  • メディア: 文庫



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コメント 4

あきえもん

こちらも面白そうですね。
リュカさんの記事を読んでいると、ちらほら読んでみたい本が出てくるんですけど、目の前の本がいっぱいでなかなか手を出せずにいます。

by あきえもん (2010-08-09 23:08) 

リュカ

>あきえもんさん
面白かったですよ~!
そう言って頂けると嬉しいです♪
私も積読がいっぱいです^^;
by リュカ (2010-08-11 21:39) 

miyuco

チュウさんの岡山弁のかざらないセリフが
魅力的で大好きでした。
オデッセイの父子のエピソードもとてもよかった。
しかし自分の事でいっぱいいっぱいの
一雄と美代子の夫婦はあまりに情けない
と怒りつつ読みました(=`´=)
by miyuco (2010-08-17 17:52) 

リュカ

>miyucoさん
荒いけど裏表なくて真っ直ぐなチュウさんの言葉、魅力ですよね~!
橋本親子のずっと続く関係も素敵です♪
それに引き換え、一雄と美代子は何であんなんなっちゃったんでしょうね><

by リュカ (2010-08-21 19:51) 

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