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小説『姫椿』 浅田次郎 [小説]

8編の短編が収められた浅田次郎さんの作品です。

飼い猫が死んでしまったOL(『シエ(獣偏に解という字』)、経営に行き詰まり、死に場所を探す社長(表題作『姫椿』)、三十年前に分かれた恋人への断ち難い思いを心に秘めた男(『オリンポスの聖女)』、妻に先立たれ、思い出の競馬場に通う大学助教授(『永遠の緑』)―
凍てついた心を抱えながら日々を暮らす人々に、冬の陽だまりにも似た微かなぬくもりが舞い降りる。

どの作品も、懸命に生きる人々に向けられる浅田さんの優しい眼差しが感じられます。
孤独や苦悩を抱える人、不器用に懸命に生きる人、そんな人達が体験した少しのファンタジックな出来事。それは「不幸の分だけ、ちゃんと幸せになれるよ。ほんとだよ。」という帯の一文を実感させてくれます。

様々な人生を辿る8人の主人公が体験した物語。中にはぞっとするような、生きる事の過酷さや変えられない運命の存在を感じさせるものもありますが、切なくも心温まり、生きる希望を持たせてくれる物語でした。
特に『シエ』と『永遠の緑』が私のお気に入りです。
『シエ』、9年連れ添った飼い猫の葬儀を済ませた鈴子は、小さなペットショップで中国の伝説の生物といわれる「シエ」と出会い、連れて帰る事になります。鈴子の心を感じたシエの独白、そしてどんなに孤独だと思っていても、見守ってくれている存在がある事、その温かさに胸を打たれました。
『永遠の緑』、不器用な大学助教授・牧野は年頃の娘・真由美と2人暮らし。大学院生だった妻・みどりに先立たれ、妻との思い出の競馬場に通っていたある日の週末、最近常連になり仲間内から「解体屋」と呼ばれる若者と言葉を交わします。生真面目な牧野とは正反対の彼は不思議と牧野の心を開かせ、みどりとの想い出を語り酒を酌み交わします。正体を無くすほど酔った2人は牧野の家に向かうのですが……。
朴訥でまっすぐな「解体屋」君の心、父を想う真由美の苦悩、不器用ながらもみどりを愛し続ける牧野、そして思わぬ結末と、牧野が真由美に言った「ママを、愛しているんです。」という言葉にジーンとして涙が溢れました。

静かに淡々と綴られる8編の物語、温かい読後感に包まれます。
ささやかな幸せや、人のぬくもり、生きる希望を感じさせてくれる物語です。




姫椿 (文春文庫)

姫椿 (文春文庫)

  • 作者: 浅田 次郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2003/09
  • メディア: 文庫



nice!(4)  コメント(2) 

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コメント 2

駅馬車

こういうのって苦手なんだよね。
泣いちゃうから(^^;

by 駅馬車 (2010-04-21 15:01) 

リュカ

>駅馬車さん
この『永遠の緑』は特に泣けちゃいますね~。
電車内など人前では読めません^^;
by リュカ (2010-04-22 19:53) 

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