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キャラメルボックス'09オータムツアー『さよならノーチラス号』 [観劇]

昨日は演劇集団キャラメルボックスのオータムツアー『さよならノーチラス号』を観てきました。

会社を辞め専業作家になる事を決めた星野タケシは、都内にマンションを買い引越しの準備を進めていた。
引越し当日、手伝いに来た編集者の森真弓は進んでいない荷造りに呆れながら、ダンボールから覗いていたブリキの潜水艦に興味を惹かれる。
「これは何?」という真弓の問いに、タケシは15年前の出来事を語り始める。
当時12歳だったタケシは家族と離れて暮らしていた。父の事業が失敗し一家で夜逃げをする羽目になったからだった。まだ小学生だったタケシは伯母の家に預けられていた。両親と10歳年上の兄は、古びた自動車整備工場の2階を借りて暮らしていて、夏休みの間だけタケシもそこで一緒に過ごす事になった。
そこでタケシは不思議な犬と出会う。整備工場の主・根本勇也が飼っている老犬で名はサブリナ。人の言葉を話す犬だった。
ある日、整備工場に勇也の兄で弁護士をしている芳樹が「事故を起こしたクライアントの車を至急修理しろ」と言ってきた。無茶な要求を渋々引き受けた勇也だったが、その後、工場に高校生の男女が忍び込んできた。「友人を事故に遭わせ逃げた車を探している」と言った2人に、勇也は「そんな車はない」と突っぱねる。
勇也が嘘を言っていると知ったタケシは……。

喋る犬・サブリナの老犬らしい落ち着きと犬らしい可愛らしさを併せ持った仕草がとっても可愛くて、また孤独なタケシを厳しく優しく見守る言葉と眼差しに惹きつけられました。タケシの孤独を感じたサブリナはタケシにだけ言葉を発し、そして「よく考えるのです。」と小学生のタケシを大人同様に扱い成長を見守る姿にふと、サブリナ自身も孤独だった時期があったのかなと感じました。同じ痛みを知る者故の優しさと厳しさを持っているように見えました。
そして、一見ぶっきらぼうで愛想が悪く粗野な印象を受ける勇也の、全てを見透かしてそれでも知らぬ振りで力を貸す大きな優しさにジーンとしました。
兄の芳樹の事も「世界で一番嫌っている」などといいながら、事故を芳樹自身が起こした事故だと見抜き、それでも芳樹の弁護士という立場や身重の妻・理沙の事を思って、それは間違っていると苦悩しながらも知らぬ振りで力を貸し秘密を守ろうとする、人間味溢れる優しすぎる姿に胸を打たれました。
そして、その事故のせいで高校生活最後の夏休みを病院で過ごす羽目になった美香と、事故の犯人を探しだそうと奔走する友人・康太郎と恵利子。
タケシの計らいで事故の犯人は芳樹だと知った康太郎達は、タケシの兄・博の協力を得て芳樹を美香に会わせ
、芳樹に事故を認めさせ償わせようとします。しかし芳樹の顔を見た美香は芳樹を許そうとします。「苦しそうな顔してた」と言う美香の優しさにもジーンとしました。
そして終盤、芳樹の妻・理沙は事故の真相を知り、美香の入院費と謝罪の意を込めて50万を博にに託します。ところが、「入院費に40万かかった」と知っていたタケシは、博から預かったお金から10万を自分の物にしようとし、それが見つかって逃げ出してしまいます。この時点では、私は「借金を背負って苦しい生活をしている父と母を救い、また家族揃って暮らしたい」と願って10万を取ったのだと考えていました。しかし、逃げ出したタケシはかつて勇也達と遊びに行った奥多摩湖で途方に暮れていたところをサブリナと勇也にも発見され、心情を吐露します。
「ノーチラス号と名付けた自分の自転車が欲しかったんだ、ネモ船長のように自由になって行きたい所へ行きたかったんだ」と。
家族と離れて暮らし、お金もなく行きたい所へも行けず欲しい物も手に入らない、孤独を抱え込んでいたタケシ。私の考えた事は、もう少し大人になってからか、あるいは心にまだゆとりのある人の考えだったと気づき、想像以上に深いタケシの孤独が胸に突き刺さってきました。
そんなタケシにかけた勇也の言葉が胸に沁みます。ノーチラス号とは小説『海底二万里』に登場する潜水艦の名前。孤独から脱し自由を得る為に陸の生活を捨て海に潜ったノーチラス号の船長・ネモは決して自由なんかではなかったと、本当に自由になりたいならノーチラス号になんか乗らないで、タケシ自身が自由にならなきゃいけないんだ、と。
「取り返しのつかない事なんかない」と諭し、自由の意味、それは現状から逃げ出す事じゃないんだと、タケシはすでに自由を手にしているのだと背中を押してやる、勇也の不器用な優しさが溢れていてジーンとなりました。そしてこの言葉は勇也自身や兄の芳樹にも向けたい言葉だっただろうと感じました。

辛い環境でも明るく前向きに、そして懸命に生きるタケシの家族の姿、12歳のタケシを見守るたくさんの温かい眼差し、「取り返しのつかない事なんかないんだ」という終盤の勇也の言葉。
生きる希望や優しさをもらえる舞台でした。

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