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短編小説集『ジュリエットの悲鳴』 有栖川有栖 [小説]

ミステリー作家有栖川有栖さんの12本の短編・ショートショートが収められた作品です。

人気絶頂のロックバンド・トラジェディの歌に、女性の悲鳴が紛れ込んでいるという―
トラジェディのボーカリスト・ロミオを取材した由理枝は、気難しげな若いロックスターの本心に触れる。取材の後、「続きが聞きたいなら、コンサートが終わった後部屋まで来てくれ」とロミオの部屋の鍵を渡された由理枝は、思いがけない話を聞く事になる。様々な噂が飛び交う<ジュリエットの悲鳴>の裏にあった悲劇の真相を―
(表題作『ジュリエットの悲鳴』)

有栖川有栖さんというと、同名の登場人物がワトソン役をこなす長編ミステリー「江上次郎&有栖川有栖(学生アリス)」シリーズと「火村英生&有栖川有栖(作家アリス)」シリーズが有名ですが、この短編集には彼らの名前は出てきません。SF設定や、心理サスペンス、犯人視点で描く倒叙ミステリー、オーソドックスな本格ミステリーから皮肉の利いたギャグまで、シリーズ物ではなかなか見られない多様なタッチの作品が揃っています。
謎解きミステリーというよりは、不穏な雰囲気や悲劇的な結末を予測させるサスペンスや、追い詰められ身動きが取れなくなっていく主人公の心理を魅せるブラックユーモアが描かれていて、有栖川さんの多彩な手腕を楽しめます。

12本のうち、特に気に入ったのは表題作『ジュリエットの悲鳴』と、推理小説新人賞に応募しようとする青年の下へ、「ミステリー作家の必需品」と言って怪しげなアイテムを売り込みに来る男の話『登竜門が多すぎる』です。
『ジュリエットの悲鳴』は醒めた目で斜に構えながらも、音楽に対して真摯でしっかりした想いを持っているロミオの姿が魅力的です。ロックバンドのCDに女性の悲鳴が入っているという怪奇現象がロミオの過去と繋がっていく様と、悲劇的な結末を思わせるラストシーンはモチーフとなっている『ロミオとジュリエット』に相応しく悲しい余韻を持っていて、読み終えた後も惹き付けられました。
『登竜門が多すぎる』は、推理小説のお約束事やタブーを扱うギャグ作品で、推理小説が好きな人ならニヤリとさせられる場面がたくさんあり、オチも上手くて楽しめます。

1番短い作品で原稿用紙換算で5枚。こんな短さで小説、しかもミステリーを書けてしまう有栖川さんの筆力に圧倒されました。有栖川さんのファンにはもちろん、ミステリー好きな方にもお勧めです。
そして、1番長い作品でも30ページ程度ですので、普段本は読まない方でも通勤通学などのお供にお勧めしたい作品です。


ジュリエットの悲鳴 (角川文庫)

ジュリエットの悲鳴 (角川文庫)

  • 作者: 有栖川 有栖
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2001/08
  • メディア: 文庫



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