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小説『セリヌンティウスの舟』 石持浅海 [小説]

2005年に刊行された石持浅海さんの作品です。

石垣島でのダイビングツアー中に、児嶋克之、三好保雄、磯崎義春、吉川清美、大橋麻子、米村美月の6人は嵐の海中に取り残されてしまった。しかし6人はしっかりと手を取り合い、荒れる海の恐怖に耐え救助を待ち、無事に生還する。それまで単なる顔見知り程度に過ぎなかった彼らは、この体験を通して揺るぎ無い信頼という絆で結ばれる。その後も度々共にダイビングをし親密な間柄となった。
事故から2年。幸せな時は突如終わる。6人がいつも通りダイビングに向かい、三好の部屋で打ち上げを開いた夜、米村美月はダイビングの記録ノートに遺書を書き自殺した。失意に沈む残された5人は、四十九日の法要の後、死に至るまでの美月の心を辿るべく三好の部屋へ集まった。そこで5人は美月の死に不自然な点を見つける。美月の死に関与した者がこの中にいる-
死んだ美月を含め互いを信じ抜く事をルールに、5人は美月の死の謎を解き始める。

嵐の海で漂流した時を回想するシーンと、美月の死の場面、5人が議論するシーンで物語は進みます。
不自然な点を解消するために議論すると、大前提である「信頼」が崩れそうになる、二転三転する議論に片時も目が離せませんでした。その大前提を崩したくなくて、今までの素晴らしい時間の下から、醜いものが現れるのを恐れた5人のやり取りは緊迫感に溢れ引き込まれます。
5人の一人・児嶋は漂流した時の6人の輪を「舟だった」といい、美月の死を議論する自分達を『走れメロス』に登場するメロスの友人・セリヌンティウスに例えました。この例えがとても重要な意味を秘めていて、明らかになった事実に驚くと共に、深い彼らの絆と死を決意した美月の想い、その後の結末に胸が痛みました。
大掛かりなトリックも複雑な人間関係も無く、不自然な友人の死について、疑心を打ち消すために議論しあう、言ってしまえばそれだけの物語です。しかし、ここには希有な体験から生まれた深い絆と、その絆を永遠に守りたいと言う想いが溢れています。その想いの強さに胸がつまりました。


セリヌンティウスの舟 (光文社文庫)

セリヌンティウスの舟 (光文社文庫)

  • 作者: 石持浅海
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2008/05/13
  • メディア: 文庫



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コメント 4

ふじたまworld

「絆」・・・、今ボクの回りでおきている出来事があるのですが、カミさんが繋げたボクにとってもひとつの絆。
カミさんは、その絆を守ろうとしています・・・。
思いの強さに、圧倒されるのと、胸がつまるのと・・・。
しかし、その姿を見ていると大事にしたい、守りたい、続けたい、という気持ちが込上げます・・・。

石持浅海さん、初めてみた名前です。
今度読んでみようと思います。
この物語も、興味と共感がわいてきました。
by ふじたまworld (2009-02-01 08:04) 

リュカ

ふじたまworldさんと奥様が守ろうとしているかけがえのない絆が、いつまでも続きますように。

石持浅海さん、このタイトルとストーリー概要に惹かれて初めて手に取った作家さんでした。
とても読みやすく、読み手を惹きつける物語を書く方です。お勧めですよ。
他の本も読んでみようと思います。


by リュカ (2009-02-01 21:17) 

麻能

リュカさんの記事は凄く真面目なので、時々しかコメできずごめんなさい。

最近本を読まなくなってきていますが、リュカさんの記事を見ると、また読もうと思ったりします。
因みに推理小説が大好きです♪
by 麻能 (2009-02-03 17:38) 

リュカ

>麻能さん
真面目ですかA^^;
感想文となるとどうしても堅苦しい文になってしまいます(苦笑)
でも私の記事読んで「また読もう」と思ってもらえるのは何よりも嬉しいです^^
推理小説私も大好きです~♪

by リュカ (2009-02-03 18:50) 

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