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小説『ゲームの名は誘拐』 東野圭吾 [小説]

藤木直人さんと仲間由紀恵さん主演『g@me』というタイトルで映画化もされた作品です。

広告代理店に勤める敏腕プランナー・佐久間は、自信を持っていた新車キャンペーンのプランをクライアントの重役・葛城の一言で潰されさらにプロジェクトからも外されてしまう。憤りを抱え葛城邸に向かった佐久間は、広大な屋敷からひっそりと飛び出してきた少女の姿を見つける。彼女は葛城の娘・樹里。複雑な家庭環境に育ったという樹里の話を聞き、佐久間は樹里と組んで狂言誘拐を企む。ネットや携帯電話を駆使し、身代金3億円と自らのプライドを賭けたゲームを挑むのだが……。

誘拐を題材にしたミステリーとしては珍しく、犯人の佐久間視点だけで物語が進みます。警察は動いているのかわからない、そんな中でも佐久間は綿密に先を読んだ計画を立てていく様と、被害者側の状況が全くわからない事が緊迫感に溢れページを捲る手が止まりませんでした。佐久間が把握できない被害者側の状況、つまりは作者が伏せている事実がラストに繋がる様は驚かされます。話の先を考えながら読むと、伏線が丁寧に張られているのである程度の予想はつくと思うのですが、それでもスピーディに展開される物語に惹き込まれ充分に楽しめます。
佐久間はとても頭のいい人物であり、自分でそれを自覚しているのがまざまざと解ります。そして誘拐という「ゲーム」を挑まれた葛城も自らを「ゲームの達人」と自負しており、2人の頭脳戦はスリル満点です。そしてこの2人に樹里、3者とも善人ではありません。現実に存在すれば敵の多い嫌われやすいタイプの人間だろうと思います。それでもこの3人の嫌な奴ぶりがこの物語を魅力的なものにしていて、不思議と爽やかな読後感があります。人質となった樹里のしたたかさや佐久間の独自の美学、葛城の成功者としての不遜さに、共感こそできないものの個性的な生き様には惹き付けられました。
「善人の出てこない小説を書きたかった」と東野さんは言っていたそうで、その目論見は成功していると思います。東野さんらしい仕掛けとスピード感を楽しめる作品です。

「勝負時での直感力と決断力があるかどうかで、成功する人間とそうじゃない人間に分かれる。」
「優秀な人間は、知らず知らずのうちにに自分を補強する材料を入手している。それは教えられて身に付くことではない。」
印象に残った葛城の台詞です。 成功者になるためには、チャンスを確実にものにする力と事前の準備が必要だという事、他者に隙を見せない事、そういう強さが必要なのかなと思いました。
果たしてそれが幸せなのかというのはまた別問題のようにも思いますが……。


ゲームの名は誘拐 (光文社文庫)

ゲームの名は誘拐 (光文社文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2005/06/14
  • メディア: 文庫



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