SSブログ

少女漫画『天は赤い河のほとり』 篠原千絵  [漫画]

小学館の『少女コミック』誌上で'95年から'02年に渡り連載された作品です。単行本で全28巻、文庫版全16巻。第46回小学館漫画賞を受賞しています。

ごく普通の中学生、鈴木夕梨は、第一志望の高校に合格し、友人の氷室聡との仲も進展し、優しい家族と共に幸せな毎日を送っていた。だがある日、氷室とのデートの最中に突然現れた手によって水溜りの中に引き込まれる。手から逃れた夕梨がたどり着いた先は、古代のヒッタイト帝国だった。ユーリをヒッタイトへ召喚したのは、国内で皇帝に次ぐ権力を持つ皇太后(タワナアンナ)・ナキア。高位の神官であり水を操る魔力を持つナキアは、自分の息子・第6王子ジュダに皇位を継がせたいという野望を抱いており、邪魔な兄皇子達を呪い殺す為の生贄としてユーリを呼び寄せたのだった。自分を取り巻く状況に混乱しながらも、ナキアの元から逃げ出したユーリを助けたのは、ナキアが最も邪魔に思っている第3皇子・カイルだった。ナキアの企みを知るカイルは、ナキアの手から守るためユーリを自分の側室にして宮にかくまう。
名実共に有力な皇位継承候補であるカイルと行動を共にするうちに、思いがけず大きな手柄をあげたユーリは、愛と戦いの女神・イシュタルとして広く名を知られ、カイルの臣下や民衆にも支持されるようになる。ユーリに探し求めていた皇妃のとしての資質を見出したカイルは、いくつもの戦や事件を経てユーリと惹かれあっていくが、ユーリの「日本に帰りたい」という願いのため、想いを遂げられずにいた。
後にカイルはヒッタイト皇帝ムルシリ2世として即位。しかし、ナキアのタワナアンナの権限は皇帝から独立している為、ナキアの横暴を止める事ができない。そんな中、ユーリはナキアの策略によって、日本に帰る為の条件の1つである『泉』を埋められそうになり、そしてそれを阻止しようとするカイルの命が危険にさらされた。日本の家族とカイル、決断を迫られたユーリはヒッタイトで生きていく事を決意。ようやく、二人は結ばれる。
その頃、ヒッタイトではエジプトとの戦争が開始されようとしていた。そしてエジプトの将軍・ラムセスも、ユーリの上に立つ者としての資質を目にし、「ユーリを自分の妻に」と狙うようになる。また、カイルとの身分の差に悩むユーリにつけ込む様に、ナキアはユーリに近衛長官(ガル・メシェデイ)就任を正妃になる為の条件として突きつけた。戦場で合法的に抹殺されかねない危険極まりない条件だったが、ユーリはそれを受け入れる。
その後ユーリはカイルとの子を授かり、ユーリは戦線を離れカルケミシュへ向かった。そして迎えたエジプトとの戦争。ナキアの陰謀、カイルの理想、ユーリの想い、ラムセスの野望、様々な思いが渦巻く戦いの最中、ユーリが行方不明になったという報がカイルに伝えられ……。

古代ヒッタイト帝国というと現在のトルコ共和国辺りになります。時代は紀元前14世紀頃。ですがこの頃の歴史を知らなくとも、物語中で丁寧に解説されているので問題なく楽しめます。

印象的で心を打つ台詞の数々、そして何よりも主人公・ユーリの芯の強さに惹き付けられました。
現代日本から召喚され、何度も命を狙われても決して怯む事無く立ち向かっていく姿、全ての人々を慈しむ優しさ、兵士達にもひけを取らない高い運動能力で戦場を駆ける姿、敵将も唸る優れた政治感覚や洞察力、カイルの理想を助ける為なら自分の危険も厭わない強い信念、そして10代の女の子らしい純粋と一途さ、悩み迷う事はあっても決して愛され守られる事に甘んじたりしない強さがとても魅力的です。
また最大の敵役・ナキア皇太后にも、野望を燃やすに至った悲しい過去があり敵キャラとしての魅力を放っています。バビロニアから売られるように側室としてヒッタイトへ嫁ぎ、愛し愛されるユーリとは正反対に、惹かれ合った神官・ウルヒと結ばれ幸福を望む事は叶いません。孤独の中、ただ自分の血筋でヒッタイトを支配する事だけを考え、皇妃への血にまみれた道を歩み、皇妃となった後はウルヒと共に政治も人命も省みず、自らの野望の為なら手段を選ばない冷酷な権力者となったナキアの悲痛な想いに胸が痛みました。
またナキアの数々の行いはユーリにとっての反面教師となります。ユーリを人の上に立つのに相応しい人物へと育てたナキアの存在はこの物語にとって無くてはならないものとなっています。

自然体で真っ直ぐな強いユーリの言葉は、ユーリと関わった人達と読み手の心に響いてきます。
「身分ってのは上の者が下の者を守るためにあるんじゃないの!?」
「皇帝陛下(カイル)にオリエントの覇権はとってほしい、けど流す血は少ない程価値がある」
「青臭いきれいごとでも、貫けば本物になるかもしれない。」

戦乱の世に生き、国を治める立場の人間でなくても、心に止めておきたい言葉です。
少女マンガですが男性にもお勧めしたい作品です。


天は赤い河のほとり〔文庫〕 1 (小学館文庫 (しA-31))

天は赤い河のほとり〔文庫〕 1 (小学館文庫 (しA-31))

  • 作者: 篠原 千絵
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2006/10/14
  • メディア: 文庫



nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。