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小説『ノルウェイの森』 村上春樹 [小説]

いわずと知れた村上春樹さんの長編小説です。発刊から20年程経つ今でも世界中で読まれています。

ドイツのハンブルク空港に下り立った僕は、機内でビートルズの『ノルウェーの森』を耳にし、連鎖するように20歳の頃の事を思い出す。自殺してしまった高校時代の友人・キズキ。キズキの幼馴染で恋人だった直子。同じ学部の緑。僕は直子を愛しつつ緑に惹かれてもいた。「私を忘れないで」そう僕に頼んだ直子は、療養施設「阿美寮」の傍の森で首を吊った―
18年の歳月は確実に僕から直子の記憶を薄れさせていくが、それと同時に深く彼女を理解出来るようになる。そして、直子は僕を愛してさえいなかったという事実を突きつけられる―

初めて読んだのは高校生の時でした。その時は一人称で書かれている事もあって主人公のワタナベトオルに感情移入し、直子の死に「どうしてどうして」という思いを持ちました。けれど、何年かおきくらいに読み返しているのですが、その度に違う印象を抱きます。今では、直子の死は主人公や阿美寮での直子のルームメイト・レイコさんが何をしようとも避けられない事で、直子の業とも言えるものだったんじゃないかと思いました。一読すると、直子の心の歪みと死は恋人・キズキの自殺にきっかけがあるように見えますが、キズキの自殺の方が直子によって引き起こされた事のように思います。姉の自殺を目の当たりにした事で直子の中には死が深く根を張ってしまっていて、3歳の時から一緒で心も身体も直子と共有するかのように育ったキズキは、それを感じて悩み死に捕らわれてしまったように見えました。キズキと直子は恋人だったにも関わらず一度も寝ておらず、その原因は直子の身体が反応しなかったためだと直子は主人公に告白します。直子はキズキの死後、彼女の20歳の誕生日に一度だけ主人公と寝ていますが、キズキを失った喪失感が増し直子の心に混乱をもたらしただけで、その行為によって幸福感を抱く事はありませんでした。直子は主人公を心の拠り所としながらも、浮き沈みを繰り返しつつ死に向かって突き進んでいたようで、主人公は直子を救う事は不可能だった事を知り、そして「僕を愛してさえいなかった」と衝撃と悔恨に苛まれる姿に胸が痛みました。
誰にも救う事が出来なかった直子のひっそりとした寂しい葬儀を忘れるべく、主人公とレイコさんがギターを奏で行った「寂しくないお葬式」のシーンに涙が零れました。

死に向かって突き進んでいた直子とは対照的に、主人公にアプローチする緑は生のエネルギーに満ちています。けっして幸福とはいえない、孤独を抱えた生活は直子や主人公と共通するものがありますが、緑は活動的で生きる意志に溢れています。そのエネルギーが死に捕らわれかけている主人公を惹き付け、キズキや直子の死の影響から主人公を救っていて、この物語自体をも希望のある生へ向かっていく形に結んでいて読後感を後味の良いものにしています。
キズキと直子は死の世界へ去り、大学で交流のあったごくわずかな人々も遠い場所へ去り、レイコさんも阿美寮を出て新たな人生を始めるべく去っていく、主人公に関わった人々のほとんどが去ってしまった中で、唯一主人公の世界にい続けた緑は何を思っていたのでしょう。実を言うと緑が何故主人公に惹かれたのか、という辺りは今ひとつ掴めません。魅力的な男性かというとそうとは思えないですし、主人公はほとんど直子の事で頭がいっぱいでその事で緑を傷つけてもいます。一体主人公の何が緑を惹きつけたのか、今度読み返す時には緑に重点を置いて読みたいと思います。

そして、『ノルウェイの森』はフランスの監督の手で映画化される事が決まったそうです。'10年公開予定。一体どんな映画になるのか、楽しみなような不安なような……。でも村上春樹さんが思い入れの強いこの作品の映画化にOKを出したのなら、期待してもいいかなと思います。


ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/09/15
  • メディア: 文庫



ノルウェイの森 下 (講談社文庫)

ノルウェイの森 下 (講談社文庫)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/09/15
  • メディア: 文庫



nice!(7)  コメント(5) 
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コメント 5

AYA

「ノルウェイの森」が映画化ですか〜。
私も見てみたいな^^


by AYA (2008-12-01 20:41) 

ミナモ

村上春樹さんの本は、家に数冊置いてあり、ノルウェイの森も確かあった気がします。
実は一度も彼の作品を読んだことがないので(><*)、今度読んでみようかと思いますv
by ミナモ (2008-12-02 00:09) 

リュカ

>AYAさん
切ないストーリーと美しい風景と、
どんな映画になるのか楽しみですね^^

>ミナモさん
村上春樹さんは評価が真っ二つに割れる作家さんですが、
私は凄く好きなんです^^
初めて読むなら『ノルウェイの森』がいいかもしれないですね^^
by リュカ (2008-12-02 21:40) 

ouichi

僕のもっとも好きな小説。
村上さんの描く喪失感が好きです。
心に突き刺さってきます。
by ouichi (2008-12-07 13:41) 

リュカ

>ouichiさん
村上さんの作品はどれを読んでも突き刺さってくる喪失感がありますね。
物語に取り込まれたような放心状態になります。
by リュカ (2008-12-07 20:17) 

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