SSブログ

小説『陰日向に咲く』 劇団ひとり [小説]

お笑い芸人・劇団ひとりさんの小説デビュー作です。落ちこぼれて日陰の人生を歩む5人の主人公が、光を見出していく様を描いたオムニバス作品で、平成18年度直木賞最有力候補と言われ、また受賞は逃したものの2007年度本屋大賞にもノミネートされ高い評価を得ている作品です。2008年1月に映画化もされています。

社会の束縛から脱する事を願って公園でホームレス生活を始めた会社員(『道草』)。デビュー5年目にして芽の出ないアイドルを一途に応援し続ける青年(『拝啓、僕のアイドル様』)。合コンで知り合った男に恋をするも、遊ばれている事に気付いてしまった冴えないフリーター(『ピンボケな私』)。借金まみれで老婆に詐欺を働こうとしたギャンブラー(『Over run』)。修学旅行で出会った路上でネタを披露する青年に運命を感じ、彼を探しに上京した不遇の少女(『鳴き砂を歩く犬』)。自由を、愛情を、幸せを求める彼らの人生の一幕―。

不器用で滑稽で、けれど一途に懸命に生きる彼らのもとに射してくる光。それはすぐそばにあったのに気づかなかったものだったり、手は届かなくとも確かに輝いているものだったり、荒んだ心で触れた他人の優しさだったりと様々ですが、どれも人間の温かさを感じさせてくれます。特に気に入ったのは『ピンボケな私』と『Over run』です。
それぞれのお話にきちんと決着が付いていて、読後感も後味良いものばかりです。所々で主人公達の人生がリンクしている運び方も上手いなと感じます。一人称で語られる文章は読みやすく、また所々に散りばめられる劇団ひとりさんの芸人さんとしてのセンス、様々なタイプの登場人物の心理を巧みに書き分ける力、優れた人間観察力、是非もっとたくさん小説を書いてもらいたいと思います。

―この先の人生がどうなるかなんてわからない。誰と出会って、何が起きるかなんてわからない。でも、それでいいと思う。何があるかわからないから、歩いていけばいいんだと思う。―
売れないままに、芸人としての道を諦め去っていく青年の言葉です。悲観する事なく、それでも肩の力を抜いて未来へ向かう希望をくれるこの言葉にジーンとしました。


陰日向に咲く (幻冬舎文庫)

陰日向に咲く (幻冬舎文庫)

  • 作者: 劇団ひとり
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2008/08
  • メディア: 文庫



nice!(1)  コメント(2) 

nice! 1

コメント 2

駅馬車

劇団ひとりさんって頭が良いらしいからね。
最近見かけないけど次回作を書いているのかな?
by 駅馬車 (2008-09-01 13:33) 

リュカ

クイズ番組やトーク番組に出演してるのを見てると、「頭のいい人だなぁ」って感じますね。
確か2作目が単行本で発売されていたような気がします。
是非もっと小説書いてほしいです^^
by リュカ (2008-09-02 01:38) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。