歴史ミステリ『邪馬台国はどこですか？』 鯨統一郎

歴史の謎を検証する歴史ミステリ、と書くと何だか堅っ苦しく感じますが、この本は学校で習った歴史を覆す驚きの説が続々と飛び出してきて、教科書でしか知らない歴史書を用いながらもわかりやすく展開される論争は、歴史にさほど詳しくなくても楽しめます。
おおよその人が知っているであろう歴史の謎6つを取り上げた短編連作です。

地下1階にあるカウンターバー「スリーバレー」。そこに日本史専攻の大学教授三谷と三谷の助手で自称「若き美貌の天才世界史研究家」の早乙女静香、ライターの宮田六郎が揃うと、決まって静香VS宮田の歴史論争が始まる。独自の説を展開する宮田に猛反発する静香。歴史には疎いが何とか3人の話題についていこうと歴史を勉強するマスターの松永。松永の疑問と、宮田と静香の論争にフォローを入れつつ、三谷教授は宮田の荒唐無稽でありながら強い説得力のある説に心を動かされる。

繰り広げられる論争は、「ブッダは本当に悟りを開いたのか？」（『悟りをひらいたのはいつですか？』）「邪馬台国があったのは、近畿でも北九州でもない。」（表題作『邪馬台国はどこですか？』）「太子でありながら天皇になれなかった聖徳太子の正体は。」（『聖徳太子はだれですか？』）「本能寺の変は謀反ではない。」（『謀反の動機はなんですか？』）「明治維新はある1人の人物が起こしたもの。」（『維新が起きたのはなぜですか？』）「処刑されたキリストが復活したのは事実だ。」（『奇跡はどのようにしてなされたのですか？』）の6つです。歴史好きにはとっても魅力的な謎、そうでない人にも「それなら知ってるぞ」と興味を持ってもらえるのではないでしょうか。
宮田が論じる説はどれも突拍子も無いもので聞いた時には「そんなバカな」と思ってしまうのですが、『魏志倭人伝』や『日本書紀』といった数々の歴史書を基に展開する説はどれも筋の通った説明がなされていて、読んでいくうちに納得させられて「それが真相かもしれない」と思わせられます。そして登場人物達のコミカルなやり取りとスピーディに進む無駄の無い展開で、歴史の難しさを感じる事なく夢中にさせてくれます。特に気に入っているのは表題の『邪馬台国はどこですか？』と『奇跡はどのようにしてなされたのですか？』の2つです。宮田の説が真相だったとしてもおかしくないくらいに強い説得力があり、また勝気で高慢な静香が宮田の珍説に論破される様子が面白いです。

歴史は勝者が綴るものであり、どんなに客観的に書かれた歴史書でも時の権力者の圧力や執筆者の立場、当時の道徳感などの影響を受けずに書かかれたものは無いと言っていいでしょう。綴られた歴史をどう見るか。学校で教わる事を鵜呑みにし年表丸暗記で終わるのではなく、時代背景を知りながら、歴史上の人物達を単なる「教科書の中の偉人」としてではなく「現代と違う価値観の中で生きた人々」として見ると、新たな歴史の面白さが見えてくるかもしれません。
自分で疑問を持ち考える事が、歴史への興味だけでなく日常の物事に対する面白さの発見に繋がるのではないかと思いました。

邪馬台国はどこですか? (創元推理文庫)

• 作者: 鯨 統一郎
• 出版社/メーカー: 東京創元社
• 発売日: 1998/05
• メディア: 文庫

タグ：小説 歴史 ミステリ 鯨統一郎

コメント 3

邪馬台国の議論は面白いですよね。
でも、北九州でも大和でもなければどこだろう？
実はこの２説、両方とも同じ人物が提唱したらしいです。
本当は北九州だと思っていたそうなんですが、天皇家に遠慮して大和説も出したとのこと。
by 駅馬車 (2008-07-01 23:52) 

歴史、とっても苦手でした。（苦笑
でも、こんな風にミステリでであっていれば、
楽しめたかもしれません。(≧v≦)
by きむたこ (2008-07-02 15:59) 

駅馬車さん、こんばんは^^
邪馬台国論争は面白いですね^^北九州でも近畿でもなく……機会があればこの本読んでみて下さい♪
どっちの説も同じ人が提唱したんですか！？知らなかったです。

きむたこさん、いらっしゃいませ^^
私も高校生くらいまでは歴史苦手でした^^;堅苦しくなく楽しめるといいですよね。
興味持つのは今からでも遅くないかもしれませんよ^^
by リュカ (2008-07-02 22:13)