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小説『声の網』 星新一 [小説]

「ショートショートの神様」と言われた星新一さんの連作掌編です。

コンピューターにより照明や空調管理、さらには電話一つで支払いや秘密の相談、簡単な診察サービス、スケジュール管理や日々の記録、好みの音楽を流す事まで何でもできる便利な社会が実現した時代。
とある住宅地区にある12階建てのビル、メロン・マンション。1階はいくつかの店舗があり2階から12階までが住居用という造りをした一般的なマンション。ある日を境にマンションの住人に掛かってくる奇妙な電話。店への強盗予告に始まり、「お前の秘密を知っているぞ」といった脅迫めいた電話。ただの悪趣味ないたずらのレベルから、電話の内容はマンションの住民だけでなく町中の人々を脅かすものになっていく。声の主はコンピューターで情報を操り人を操り、社会を支配していく……。

12編のショートショートから成る連作なのですが、他の星さんの作品にあるブラックな笑いや思わずニヤリとしてしまうような鋭いオチがなく、漠然とした不安感だけを残して次のお話へ進んで行きます。けれど、この「声の主」の正体がわかった時、この不安感は抗う事どころか感知すらできないまま支配され管理されていく事への恐怖を秘めている事がわかります。これってネット社会と言われる現代に充分潜んでいる可能性のある恐怖ではないかと思います。
そして、この作品が書かれたのは1970年だという事に驚きました! ネットショッピングにネットバンキング、映画や音楽のDL配信等など、パソコン1台あれば様々な事が出来る現代を予知していたかのような発想力です。そして何より、記録や情報が武器になるという発想と情報を握った側の圧倒的な強さと情報を握られた人間の心理が、30年以上前に小説として描かれていた事に星さんの時代を見る力の強さを感じます。

ネット社会は確かに便利です。まだまだ技術は進んでいくようですね。ですが、便利さを追求した末に行き着く先が「コンピューターが無いと何も出来ない」という世の中では悲しいなと思います。読み終えてそんな事を思いました。


声の網 (角川文庫)

声の網 (角川文庫)

  • 作者: 星 新一
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2006/01/25
  • メディア: 文庫



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ちぃ

本を買ったことのある、数少ない作家さんです。
サクサク読めるので、活字嫌いなアタイにも、お手頃でした。
科学の進歩でできる虚しさの様な、考えさせられる内容が多いですね。
by ちぃ (2008-06-24 22:53) 

リュカ

ちぃさんも星さんの本お持ちですか^^
読みやすい文章ですし手軽に読めますよね。でも、深い。技術も道具も使い方次第で結末が大きく変わってしまう、いい世の中になるように使っていきたいですね。
by リュカ (2008-06-25 18:43) 

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