推理小説『日曜の夜は出たくない』 倉知淳 [小説]
倉知淳さんのデビュー作で「猫丸先輩シリーズ」第一弾となる短編連作集です。
今日も今日とて披露宴帰りに謎解きを始めた猫丸先輩。
新聞記事につられて現地へ赴くこともあれば、あちらの海では船頭修業。絶妙のアドリブで舞台の急場を凌ぎ、こちらでは在野の研究家然とする。飲み屋で探偵指南をするやら、悩み相談に半畳を打つやら…天馬空を行く不羈なるおかたである。
事ある所ないところ黒い上着を翻し、迷える仔羊の愁眉を開く、猫丸先輩ここにあり。
猫丸先輩の、好奇心旺盛で何にでも首を突っ込むくせにどことなく投げやりな態度、尊大で自信家、それでいて垣間見せる優しさは、陰惨な背景のありそうな事件に温もりを与えてくれる存在感があります。周囲の人から「変人」と評される自由奔放ぶりもまた魅力的です。
そして、飄々と現れては世間で騒ぎになっている変死事件の謎を解いて見せたり、かと思えばお伽噺の真相を探ったり、つかみどころのないキャラクターで登場人物を振り回しては謎解きを披露する猫丸先輩。どちらかというと安楽椅子探偵のようですが、「果たしてその推理が真相なのか?」という点にはほとんど興味が無いようです。特に一作目『空中散歩者の最期』では図を描いて変死体の謎を解いてみせているのですが、「そのトリックは物理的にあり得るのか?」と疑問が残ります。
猫丸先輩の推理が検証されないまま事件はその通りの結末を迎えていたり、また、各物語は一見繋がりの無い別々の事件に見えても、同じ登場人物が違う境遇で現れていたり、名前だけが他の作品でも出てきたりと、微妙な繋がりと奇妙な違和感を残しながら物語は進みます。
とはいえ、文章は読みやすく物語もテンポ良く展開するので、違和感はありつつも読みづらいといった事はありません。
そして、最後まで読み進めてようやく分かるこの作品群の仕掛けに驚かされました。探偵役の猫丸先輩が推理の検証には無頓着なのも、成立しなさそうなトリックで謎解きがされているのも、同じ登場人物が各物語に出てくる理由も、計算された上での事。これを踏まえて読み返すと疑問点は納得のいくものとなり、凝った仕掛けに感嘆しました。
身近にいたらたぶん迷惑な人であろう猫丸先輩の憎めないキャラクターに、作者の鋭い観察眼から生まれる登場人物の心理や事件の情景、盲点を突いた謎の数々、一度読んだらクセになる作品です。
今日も今日とて披露宴帰りに謎解きを始めた猫丸先輩。
新聞記事につられて現地へ赴くこともあれば、あちらの海では船頭修業。絶妙のアドリブで舞台の急場を凌ぎ、こちらでは在野の研究家然とする。飲み屋で探偵指南をするやら、悩み相談に半畳を打つやら…天馬空を行く不羈なるおかたである。
事ある所ないところ黒い上着を翻し、迷える仔羊の愁眉を開く、猫丸先輩ここにあり。
猫丸先輩の、好奇心旺盛で何にでも首を突っ込むくせにどことなく投げやりな態度、尊大で自信家、それでいて垣間見せる優しさは、陰惨な背景のありそうな事件に温もりを与えてくれる存在感があります。周囲の人から「変人」と評される自由奔放ぶりもまた魅力的です。
そして、飄々と現れては世間で騒ぎになっている変死事件の謎を解いて見せたり、かと思えばお伽噺の真相を探ったり、つかみどころのないキャラクターで登場人物を振り回しては謎解きを披露する猫丸先輩。どちらかというと安楽椅子探偵のようですが、「果たしてその推理が真相なのか?」という点にはほとんど興味が無いようです。特に一作目『空中散歩者の最期』では図を描いて変死体の謎を解いてみせているのですが、「そのトリックは物理的にあり得るのか?」と疑問が残ります。
猫丸先輩の推理が検証されないまま事件はその通りの結末を迎えていたり、また、各物語は一見繋がりの無い別々の事件に見えても、同じ登場人物が違う境遇で現れていたり、名前だけが他の作品でも出てきたりと、微妙な繋がりと奇妙な違和感を残しながら物語は進みます。
とはいえ、文章は読みやすく物語もテンポ良く展開するので、違和感はありつつも読みづらいといった事はありません。
そして、最後まで読み進めてようやく分かるこの作品群の仕掛けに驚かされました。探偵役の猫丸先輩が推理の検証には無頓着なのも、成立しなさそうなトリックで謎解きがされているのも、同じ登場人物が各物語に出てくる理由も、計算された上での事。これを踏まえて読み返すと疑問点は納得のいくものとなり、凝った仕掛けに感嘆しました。
身近にいたらたぶん迷惑な人であろう猫丸先輩の憎めないキャラクターに、作者の鋭い観察眼から生まれる登場人物の心理や事件の情景、盲点を突いた謎の数々、一度読んだらクセになる作品です。
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