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小説『鹿男あをによし』 万城目学 [小説]

テレビドラマ化もされた万城目学さんの作品です。

大学の研究室を追われた二十八歳の「おれ」。
失意の彼は教授の勧めに従って奈良の女子高に赴任する。ほんの気休めのはすだった。英気を養って研究室に戻るはずだった。渋みをきかせた中年男の声で"鹿"が話しかけてくるまでは。
「さあ、神無月だ――出番だよ、先生。」
彼に下された謎の指令とは?
事を舞台に展開する前代未聞の救国ストーリー。

神経衰弱と言われ産休代理教師として奈良へ行く事を進められる主人公。夏目漱石の『坊ちゃん』を連想させる導入部から、人語を喋る鹿(しかも渋みのきいた中年声でありながらメス)に告げられたわけのわからない使命、赴任先の女子高で何故かつっかかってくる担任クラスの生徒・堀田イト、京都・大阪・奈良の姉妹校で開催される「大和杯」に、日本神話や古代史が絡み、次第に目を離せない展開になっていきます。
鹿は唐突に「先生は"運び番"に選ばれた」と告げ、混乱する先生と読者をよそに「京都で狐の"使い番"から"目"を渡されるからそれを持ってくればいい。」と続けます。それは"サンカク"とも呼ばれる神宝だとだけ告げ、使い番は誰で目とは何なのか、そもそも何のためにそれが必要なのか、など一切鹿は説明しないまま事態はどんどん進んでいきます。
まるで計ったかのようなタイミングで赴任先の高校で開催される「大和杯」。急遽、部員3名の剣道部顧問に就かされ暗澹たる気持ちになる先生ですが、大和杯剣道の優勝カップが"サンカク"と呼ばれている事を知り一念発起、頼りないこれまでの印象を覆していく先生の行動力に惹き付けられます。さらに、剣道部へ入部を希望してきた堀田イト。圧倒的な実力を見せた彼女と、「やる前から諦めるな」と語る先生と真摯な表情を向ける部員達の短くも熱い日々、そして迎えた試合の日。「諦めるな!」と叫ぶ先生と大和杯獲得への執念を見せるイト。臨場感と緊迫感に満ちた試合に思わず力が入りました。
そして待ち受けていた新たな展開。イトが先生に突っかかってきた理由や、大和杯を前に剣道部へ入部してきた意図も明らかになります。そして二転三転する先生の使命の行方に目が離せなくなります。
1800年も前から古都でひっそりと続けられてきた儀式。奈良の鹿、京都の狐、そして大阪の鼠が、180年毎の神無月――神々が出雲へ出払ってしまう時期――に、人間を護るためにある儀式を行っている、幻想的な設定ですが謎の多い古代史と絡めてとても魅力的な流れになっています。
人間のためとはいえ、鹿達は人間に肩入れするわけではなくあくまでも超然としているのも魅力です。そして何故鹿達が、当の人間すら忘れてしまった超自然の儀式をいつまでも行っているのか? 鹿が語ったそれぞれの秘めた想いにも心打たれました。

使命を果たし、急遽高校を解任された先生。
ラストシーンも爽やかでちょっぴり切なくてジーンとします。


「人間は文字に残しておかないと、どんなことでもいつかは忘れてしまうんです。」
印象に残った台詞の一つです。この物語を読み終えて、それって淋しい事かもしれないと思いました。


鹿男あをによし (幻冬舎文庫)

鹿男あをによし (幻冬舎文庫)

  • 作者: 万城目 学
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2010/04
  • メディア: 文庫



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コメント 4

駅馬車

私はドラマを見ないので番宣で喋る鹿を見て、なんだこれ?って思っていました(^^;
なかなか奥が深いんですね。

昨年は出雲に行ってきたのでなんだか気になります。
ちょうど10月だったのですが、神様は旧暦なんだそうで、まだ神様は集まっていませんでした(^^;



by 駅馬車 (2010-10-04 15:29) 

リュカ

>駅馬車さん
ドラマはちらっとしか見てないですが、荒唐無稽な設定に見えて実はしっかりした深いストーリーでした^^
歴史のロマンを感じます^^
神々が集まっている時期の出雲って行ってみたいですね^^
by リュカ (2010-10-06 14:30) 

なっち♪

ご無沙汰していますペコリ(o_ _)o))
ようやく体調も落着き パソを開く余裕が^^;
また よろしくお願いします^^

この本 面白かったです!^^
軽いノリかと思ったら 読み応えありました^^
by なっち♪ (2010-10-12 23:24) 

リュカ

>なっちさん
レス遅くなりましたm(_ _)m
体調落ち着いてきたとの事で何よりです^^
こちらこそよろしくお願いします♪

この本面白いですよね!
鹿が喋るとか日本を救うとか、突拍子もない設定なのに深く掘り下げてあって、読み応え充分でしたね♪
by リュカ (2010-10-15 18:58) 

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