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小説『使命と魂のリミット』 東野圭吾 [小説]

今年2月に文庫化された東野圭吾さんの作品です。
(※ややネタバレあり注意)

「医療ミスを公表しなければ病院を破壊する」突然の脅迫状に揺れる帝都大学病院。
「隠された医療ミスなどない」と断言する心臓血管外科の権威・西園教授。
しかし、研修医・氷室夕紀は、その言葉を鵜呑みにできなかった。西園が執刀した手術で帰らぬ人となった彼女の父は、意図的に死に至らしめられたのではという疑念を抱いていたからだ……。
あの日、手術室で何があったのか? 今日、何が起こるのか?
大病院を前代未聞の危機が襲う。

医療用語など専門用語が多く出てきますが、わかりやすく書かれていて引っかかる事無く読み進められます。
全編に渡って立ち込める緊迫感に、ページをめくる手が止まりませんでした。
帝都大学病院を脅迫した人物の正体は早い段階から読み手には明らかになり、彼の目的と犯行の手際も徐々に語られて行きます。犯人である彼・直井穣治の視点と、氷室夕紀の視点で物語が語られていくにつれ、それぞれの登場人物との意外なつながりや過去が明らかになり、事態は当初とは予想も付かない方向へと進んでいきます。
とくに警察官だった夕紀の父・健介と西園医師の関係は、夕紀に新たな疑念を抱かせ物語を別の方向へと導いていきます。名医と言われ多くの医師の尊敬を集める西園。夕紀自身も彼の下で学び、西園の優れた技術や医師としての在り方を目の当たりにし尊敬の念を抱いていますが、「それほどの名医が何故父を救えなかったのか?」という拭い切れない疑念を抱き続け、そして疑いに拍車をかける事実が明らかになります。読んでいても西園医師に何ら後ろ暗い面は見受けられないのですが、この事実には少しぐらつかされました。
そして、直井穣治は着々と計画を進めていきます。帝都大学病院に看護師として勤める真瀬望に近付き病院の情報を得ながら、計画を進める穣治。彼は何を想って犯行に臨んだのか。彼のやり場のない怒りと絶望、そして自分に愛されていると信じる望を利用している事への罪悪感が切なく胸に迫ってきます。
ある人物の手術中に起きた非常事態。穣治の計画通りに事は進み、手術に臨んでいた西園や夕紀達は窮地に陥ります。手術の続行が困難な状況で、それでも患者を救おうと知恵を絞り最善を尽くす西園達の姿に心打たれました。
そして、良心と怒りの間で揺らぐ穣治の心を動かした望の言葉と、手術後に西園と夕紀が交わした会話に涙が溢れます。
独りきりで抱えてきた穣治の怒りや夕紀の疑念、それが昇華していく様は温かく優しい読後感が残りました。

「人間というのは、その人にしか果たせない使命というものを持っている」
かつて健介が夕紀に語った言葉で、夕紀の支えとなっている言葉です。
人として、社会の一員として、自分の使命とは何だろう? 自分に出来る事は何だろう?
困難な状況にあっても、それを全うする事が出来るだろうか?
色んな事を考えさせられた作品でした。


使命と魂のリミット (角川文庫)

使命と魂のリミット (角川文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2010/02/25
  • メディア: 文庫



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あきえもん

リュカさん、こんにちは!
東野圭吾さん人気ですね。
たくさんのブログでとりあげられているのを見かけます。
私は読んだことがなくて、実はそんなに興味もなかったのだけれど(失礼)、こちらの本は読んでみたいなと思いました。
病院で働いているので(事務ですけど)、医療を扱っているお話ということで余計に興味があります~。
by あきえもん (2010-07-02 19:32) 

リュカ

>あきえもんさん
東野さん人気高いですね~。
初東野作品なら、この本は後味も良いですしぴったりだと思いますよ^^
病院で働いているんですね。事務でも医師でも、病院って大変な職場だなぁと思います。

by リュカ (2010-07-02 22:03) 

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