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少女漫画『空(から)の帝国』 喜多尚江 [漫画]

「花とゆめ」(白泉社)で1993年から1997年まで連載された作品です。
喜多さんの代表作となっています。コミックスは全7巻(現在絶版)、文庫本で全3巻です。

西暦2500年代、イデアという名の不思議な力を持つ人物が初めて世界を統一した。皇帝イデアが支配した数年、世界は平和そのものだった。しかし、突然の彼の死によって世界は混乱に陥っていく。イデアの復活を望む大臣達は、王宮科学者・英里にイデアのクローン作成を依頼するが、クローン技術が未熟である事を理由に英里はそれを断っていた。そんな時英里と彼と共に暮らす少女・リリカは、何者かに襲われ怪我をした少年を街で保護した。イデアそっくりのその少年は「俺はイデアじゃない」と言い残し気を失ってしまう。連れて帰り手当てをすると、目覚めた少年は一切の記憶を失っていた。リリカは彼の額にある傷跡の形から少年を「ローズ」と呼んだ。ローズは大臣達が秘密裏に作成したイデアのクローン。失敗作として処分される所を逃げ出してきたのだった。
王宮で暮らす事になったローズだが、自分はイデアじゃない、失敗作なんかじゃないと葛藤するローズをよそに、イデアの力を受け継ぐ彼を様々な者達が狙う。
一方、保存されていたイデアの遺体が何者かに盗まれてしまった。かつて英里の助手をしていた科学者、通称・右目がイデアの遺体を手に入れる。イデアを憎んでいた右目は「イデアの望まなかった世界」を作らせる為イデアのクローンを作り出し、"イデアと同じ"という意味の「イデム」と名付ける。イデムは右目に認められる為必死にイデアになろうとする。
そして、イデアの力を完全に制御する為の「イデアの遺産」の存在を巡って、ローズは否応無しにイデムと戦う事になる。そして右目の後押しによりイデムは新帝の座に就き、ローズは違法クローンとして指名手配されてしまった。だが、死んだはずのイデアの髪が伸びている事がわかり……。

自分の生まれた理由を求め、そして絶対的な力を持っていたイデアと始終比較されあがくローズの姿に惹き付けられます。そしてローズ同様、イデアのクローンとして生まれたイデムも、自分の存在意義を求めイデアになろうと渇望し、ローズに戦いを挑む痛々しいくらいの一途さにも惹かれます。
ローズにはイデアのクローンとして、そしてイデアとは違う事を証明する為に様々な困難が降りかかってきます。時に傷つきながらも、逃げ出さずに必死に戦い走り続けるローズは見ていて応援したくなります。そして、イデアの替わりではなくローズとして生きようとする彼を慕う人々が皆温かくて、特にローズが想いを寄せるリリカの行動力溢れる姿と「イデアのクローン」である崩せない事実の前に苦しむローズを思いやる彼女の気持ちにジーンとします。
彼らがローズを支え助けようとするのは、ローズがイデアのクローンだからなんかではなく、ローズ自身の人柄や一途さに惹かれての事だと感じました。

淡く優しい雰囲気の絵柄と、登場人物達の温かさがマッチした素敵な作品です。
自分が自分である事を証明する事って実は意外と難しい事なのではないかと思いました。



空(から)の帝国 (第1巻) (白泉社文庫)

空(から)の帝国 (第1巻) (白泉社文庫)

  • 作者: 喜多 尚江
  • 出版社/メーカー: 白泉社
  • 発売日: 2005/01
  • メディア: 文庫



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