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小説『それでも、警官は微笑う』 日明恩 [小説]

第25回メフィスト賞を受賞した警察小説です。

池袋署の武骨で無口な武本巡査部長と、武本より年下で警視総監も頭が上がらない人物を母に持つ潮崎警部補は、ある特殊な密造拳銃の捜査に当たる。そして5年前に起きたある事件が浮かび上がってきた―覚醒剤乱用防止推進委員・泉真彦の拳銃自殺―泉の体内から薬物が検出されマスコミに騒がれたこの事件を、麻薬取締官・宮田は泉の無実を証明するために追い続けていた。
年々押収される数の増えて行く密造拳銃と泉の死の真相を追ううちに、その背景に潜む巨大な陰謀が浮かび上がってくる―

登場人物がとても魅力的でした。武骨で無口な武本、口が達者で爽やかな潮崎、ひたむきで優しげな宮田、そして警察や麻薬取締部といった組織からはみ出してしまいがちな彼らの理解者である上司や同僚達。潮崎とコンビを組んだ始めの頃は、彼の暢気にも見えるペースに困惑し閉口するばかりだった武本が、次第に潮崎を理解し信頼し不器用ながらも潮崎を労ったり励ましたりする様に胸を打たれました。そして事件の解決だけでなく、警察と麻薬取締部の対立や警察内部の対立など、様々な煩わしいものが武本達の前に立ち塞がります。それでも誰一人自分の信念を曲げる事無く、真実を求めて奔走する熱い姿に惹き付けられました。
ネットから情報を得るシーンがあり、目的の情報が簡単に手に入りすぎるような感もありますが、娯楽小説として充分許容できる範囲だと思います。それに潮崎の人柄なら、そのくらいの強運を引き寄せてしまえそうです。
銃を広める犯人もまた、ある強い想いを抱え突き進んでいきます。辛い過去を抱えながらそれを糧として生き、故国からの命令を確実にこなしていた彼の、故国に利用されているに過ぎなかったとわかったその後の暴走ぶりが痛々しいです。終盤、行方を眩ました彼ですがきっと生きていると、そしてまた武本の前に立ちはだかるのではないかと思いました。
そしてマスコミによって世間の悪意に晒された泉の家族。かつて宮田と交際していた泉聡子の、終盤での変わりようにぞっとしてしまいました。けどあれが彼女の本質だったのだと思います。聡子のために奔走した宮田の寂しげな笑顔に心が痛みます。それでも新しい道を見つけ、武本のおかげで後悔しないで済んだという台詞に胸が熱くなりました。
それぞれに新しい道へ歩み出す3人の姿が明るい希望に満ちていて爽やかな読後感に包まれます。
―これが終わりではない。たった今、始まったんだ―
続編も出ているようですし、彼らの今後の姿をまた見たいです。

「どうせ悔やむのなら、何もしないでしなかったことを悔やむより、やってしまって悔やんだ方がまだましだ。やるだけやって、その結果悔やんだとしたら、二度としなければいい。」
「明日を待つんじゃない、自分から迎えろ」
とても印象的で特に胸に響いた武本の台詞です。カッコイイと絶賛しメモした潮崎同様、私の心にも刻んでおきたいと思いました。


それでも、警官は微笑う (講談社文庫)

それでも、警官は微笑う (講談社文庫)

  • 作者: 日明 恩
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2006/07/12
  • メディア: 文庫



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