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小説『夏の庭』 湯本香樹実 [小説]

湯本香樹実さんのデビュー作で、世界各国で翻訳され舞台や映画化もされている作品です。

「人の死を見てみたい」という好奇心から小学6年生の木山、山下、河辺の3人は夏休みに町外れに住む一人暮らしのおじいさんを見張り始める。見張られている事に気付いたおじいさんは憤りを見せるものの、やがて3人とおじいさんは心を通わせるようになる。ゴミも雑草も放置してあった家を3人に手伝わせて片付け、庭にコスモスの種を撒き、スイカを共に食べたり、おじいさんが戦争中に経験した悲惨で深い哀しみを分け合い、川原で花火を楽しむ4人。家庭や受験などそれぞれの悩みを抱えていた3人は、おじいさんから自発的に多くを学び、お互いの考え方や自分でさえ気付かなかった特技に気付いていく。そして孤独に慣れきり、漫然と日々を過ごしていたおじいさんもまた、彼らと触れ合うことで生き生きとし始める。
だが、夏が終わりかける頃、サッカーの合宿から帰り合宿先での事を話そうとしていた3人はおじいさんの死を発見する……。


興味本位で始めたおじいさんの観察から発展した友情は、少年達だけでなく私にも温かい繋がりをくれたように感じました。おじいさんは3人を自分と対等な友人として接していて、口調こそ横柄なものの決して上から目線であぁだこうだと言う事がなく、子どもなりに悩みや考えがある事をちゃんとわかってくれている人なんだと思います。それでいてきちんと叱るべき所で叱ってくれる、親や学校の先生では教えられない事を教えてくれた大きくかけがえの無い存在で、おじいさんと触れ合った事で彼らは少しだけ大人になれたんじゃないかと思います。
また、作中におじいさんの名前は一度も出てきません。固有名詞を持たないおじいさんは「おじいさん」でしかなく、読み手にとってそれぞれの「おじいさん像」が浮かび、より一層感情移入しやすくなっています。
そして、突然おじいさんを亡くした彼らの悲しみは深く伝わってきます。おじいさんが、3人が帰って来たら一緒に食べるつもりで用意していたブドウの香りと、ブドウの粒をおじいさんの口にあてがう彼らの悲しみにジーンと胸が熱くなります。
コスモスが咲いた庭は主を亡くした家と一緒に取り壊されて無くなってしまいます。それでも、彼らがこの庭とおじいさんを忘れる事はないだろうなと思いました。「あの世に知り合いがいるんだ。それって心強くないか!」と頷きあう彼らの姿は、序盤よりもずっと大人びて見えます。

人を成長させ、心の支えになるような出会い。そんな出会いを見つけられたら素敵だなと思います。


夏の庭―The Friends (新潮文庫)

夏の庭―The Friends (新潮文庫)

  • 作者: 湯本 香樹実
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1994/03
  • メディア: 文庫



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