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小説『死神の精度』 伊坂幸太郎 [小説]

今年3月に金城武さん主演で映画化された伊坂幸太郎さんの連作短編です。

死を定められた人間を、一週間かけて死に値するか調査する存在・死神。
ストーカーめいたクレーム電話の対応に疲れ果てた女性、任侠を重んじ敵対する組に乗り込んでいく男、豪雪で孤立した洋館に集っていた人々、向かいのマンションに住む女性に恋をしたわざとダサい外見を装う青年、幼少時にトラウマを抱え母親を刺し見知らぬ男を刺した凶暴な青年、死期を悟り調査に訪れた死神に奇妙な依頼を持ち掛けた美容師の老女。
「人間の死に興味はない。仕事だから彼らに関わっているだけだ。」と言うクールで少しズレた死神・千葉が調査した6人の人生は……。

死を題材にした物語でありながら、全く重苦しい雰囲気を感じないのは、死神が対象者に直接手を下すわけではない事と、クールなんだけれどどこかとぼけた雰囲気の千葉の存在からなのでしょう。死神達にも、対象者がどんな死を遂げるのかは調査を終えその瞬間が来るまでわからないという設定は、死を「死神に取り付かれて起きる暗い運命」ではなくしてくれています。また、ジャンルを問わず音楽をこよなく愛し、比喩表現が通じず大まじめに聞き返したりする姿には、これまでの死神のイメージには無い純粋さや愛嬌を感じます。仕事に徹するクールな態度でも誠実な人物(?)像が伺えて、千葉の言葉や行動、考えをより一層魅力的なものにしています。時には鋭く冷静に人間を観察し、時には慈悲めいた優しさを見せる(当人に優しいなんて自覚は無いでしょうが)、「こんな死神になら会ってみたい」という気持ちになります。
死神を主人公に据えておきながら恋愛小説からミステリー、任侠物まで楽しめるこの作品に伊坂さんの強い個性と幅広い才能を感じます。
「俺が仕事のときはいつも雨だ」と言う千葉が最終話で初めて青空を目にした気持ちと、死も時間も超越した死神・千葉が語る人間観や死生観が重なり、とても優しく清々しい読後感がありました。
死は絶望ではなくましてや救いでもなく、命あるものに訪れる必然なんだと、そしてそれが訪れるタイミングも運命だとかカルマだとかいった事ではなくて、その人の個性なのかもしれないと感じました。


死神の精度 (文春文庫)

死神の精度 (文春文庫)

  • 作者: 伊坂 幸太郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2008/02/08
  • メディア: 文庫



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