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小説『火花』又吉直樹 [小説]

言わずと知れた芥川賞受賞作、ピース又吉さんによる作品です。

お笑い芸人二人。奇想の天才である一方で人間味溢れる神谷、彼を師と慕う後輩徳永。笑いの真髄について議論しながら、それぞれの道を歩んでいる。神谷は徳永に「俺の伝記を書け」と命令した。彼らの人生はどう変転していくのか。

多少回りくどい表現や時間の経過が解りづらい点はありますが、全体的には丁寧に書かれていてすんなり読み終えました。
物語は主人公・徳永の語りで進みます。華やかな芸能界の底辺の方で生きる中で、孤独感や劣等感と戦いながら必死に売れようとあがく姿が淡々とした口調で語られていき、彼らの「面白いと言われたい」という想い
の切実さが伝わってきます。
彼らが語るお笑い論は、若さ故か売れない立場からか、理想論のような青臭さを感じたりもしますが、そういうところも人間味があって惹かれました。
生真面目で良くも悪くも常識人な徳永に対し、破天荒で型破りな神谷。神谷は笑いを取る事、面白いと言われる事が生きる全てで、世間体や常識などといった事には無頓着で、良く言えば不器用な、悪く言えばアウロトーな人物です。徳永は神谷の破天荒さを「天才」と評しますが、世間には神谷の笑いは全く受け入れられず、徳永のコンビ「スパークス」が少しずつでも名を知られていく中、多額の借金まで抱え転落していく神谷を徳永は悲しみまた憐れんでもいるように見えます。自分には無いものを持っている神谷への「神谷には、天才芸人にはこうあってほしい」という願いも含まれているのでしょう。
綺麗事や理想論、劣等感や孤独感を抱えながら、芸人という特殊な職業で生きている人が笑いを突き詰めていく、そこには正解はありません。正解が作品の中で提示されているなら、彼らはもっと華やかな道を歩いていた事でしょう。
ドラマチックな展開や鮮やかな結末はありませんが、承認欲求、孤独や劣等感との戦い、どんな人にも当てはまる普遍的なテーマに惹きつけられました。
花火大会のシーンから始まり幕引きも花火大会、彼らの人生は花火のような華やかさはないけれど、火花のような鮮烈さを持っているのだと感じました。



火花

火花

  • 作者: 又吉 直樹
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/03/11
  • メディア: 単行本



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演劇集団キャラメルボックス30th vol.3『時をかける少女』 [観劇]

7月29日に演劇集団キャラメルボックスの公演、『時をかける少女』東京公演を観てきました。遅くなってしまいましたが感想をアップします。
(※若干のネタバレを含みます。)

尾道マナツは高校2年生の女の子。札幌で両親と暮らしている。
8月、目の病気にかかった伯母の世話をするために東京へ行く。伯母の家に着くと、幼馴染の竹原輝彦と再会する。伯母の芳山和子は、大学で薬学の研究をしていた。輝彦も和子の教え子として、同じ大学に通っていた。
翌日、マナツは伯母と共に大学へ行き、輝彦に学内を案内してもらうが、途中で迷子になってしまう。人影を追って実験室に入ると、フラスコが倒れ、中からラベンダーの香りがする煙が立ちのぼる。マナツはその煙を吸って意識を失う。
次の日、再び大学へ行くと、今度は地震が発生。マナツと輝彦に向かってエアコンの室外機が落ちてきた。ぶつかる、と思った瞬間、マナツは1分前に戻っていた……。
(パンフレットより)

この作品は筒井康隆さんによる同名の原作小説の世界から30年後の物語です。原作のヒロイン・芳山和子は現在40代。高校時代に同じくラベンダーの香りの煙を吸ってタイムリープを経験した和子は、当時の自分と同じ世代のマナツを見守る立場ですが、マナツもタイムリープを経験したと知った時、ある事情で忘れていた記憶を、当時の恋を思い出します。そして明らかになっていく30年前の恋の結末と、それにまつわる真実。この舞台の主人公は高校生のマナツですが、私が惹きつけられたのは原作のヒロイン、和子でした。当時和子が恋をした少年は、その恋が終わる時、また違う形できっと会えるという旨の事を告げ姿を消しています。そして現在、マナツの不思議な体験と同時に蘇る恋心、そして現在の和子を取り巻く人々。果たされていた約束とそこに込められた想い、真相を知った和子の涙と言葉に胸を打たれます。長い時をかけた互いの深い想いに感銘を受けました。

タイムリープシーンの表現や、タイムリープ能力とラベンダーの煙の謎を解くべく突っ走るマナツ、時にマナツを守り時に諌め共にかける輝彦、実験室にあったフラスコの中のものは誰が何の為に作ったのか、深まる謎と交錯する想い、舞台を包む疾走感に圧倒されました。

東京公演は終了してしまいましたが、20日から24日にかけて大阪で上演されます。ぜひたくさんの人に観て頂きたい作品です。

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配信シングル『天使がくれたハンマー』 chage [音楽]

7月15日に配信が始まったchageさんのニューシングルです。
配信限定でCDの発売はないようです。

「天使」と「ハンマー」、一見似つかわしくない組み合わせですが、松井五郎さんの希望に満ちた詩と、chageさんの繊細で優しい歌声を聴いていると、これ以上無いぴったりな組み合わせに思えてきます。
軽快で爽やかなメロディと優しい歌声、温かな詩に元気を貰える一曲です。
ジャケット写真(デジタル配信でもジャケットって言うんでしょうか?)は南国の夏を思わせる爽やかなイメージで、とってもchageさんらしくて素敵な写真です。

9月にはアルバムの発売も決定し、今後の活動からも目が離せません!
楽曲ダウンロードはこちらから!
itunes
レコチョク
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演劇集団キャラメルボックス30th vol.2『カレッジ・オブ・ザ・ウインド』 [観劇]

昨日は演劇集団キャラメルボックスの公演『カレッジ・オブ・ザ・ウインド』を観てきました。(若干のネタバレを含みますのでご注意ください。)

8月、大学生の高梨ほしみは、家族6人でキャンプに出かける。それは、年に一度の家族の行事。ところが、キャンプ場に向かう途中で事故が起こり。家族全員を失ってしまう。ほしみだけは軽傷で済んだが、直ちに病院へ運ばれた。すると、亡くなったはずの家族もついてくる。その姿は、ほしみにしか見えない。なぜなら、彼らは幽霊だから。バラバラだった家族が、ほしみを見守ることで一つになる。しかし、いつかは別れなければならない。ほしみが家族と過ごす、最後の夏……。
(パンフレットより)

4度目の上演となる人気作ですが、私は今回が初見で何度も驚かされました。事前に公式サイトで上記のあらすじを読んだのですが、それとは全く雰囲気の異なる、サスペンスめいた冒頭のシーンに驚かされました。あのシーンがほしみ達家族の事故とどう繋がるのかとあっという間に惹き込まれました。
何故か警察に追われるほしみの叔父・鉄平。彼は何故追われているのか。そして彼の妻・あやめと、あやめの同僚の男性・菊川を取り巻く複雑な想いとすれ違いに胸が痛みます。
そしてほしみ達の事故を聞いてようやく病院へ駆けつけた鉄平が語った話と、鉄平を追ってほしみを訪ねてきた刑事達の話は大きく食い違っていて、何が本当なのか、鉄平は一体誰の為に奔走しているのかとますます目が離せなくなりました。
また、夏のキャンプが恒例行事になっているとはいえ、ほしみ達家族の心はバラバラで、それを悲しみどうにかしたいと行動するほしみの家族を愛する一途さと健気さに惹きつけられました。病室で、看護師や同室の患者、そばにいる家族の心配を吹き飛ばすように明るく振る舞うほしみの姿、そんな彼女を見てやっと心が一つになる家族の様子に、「家族」って何なのかと考えさせられます。そして、終盤で明らかになるある人の秘密に愕然となりました。家族をいっぺんに失ったばかりか、そんな衝撃的な事実を突き付けられてなお、家族を好きだと言えるほしみの強さとその想いの深さに心打たれました。
一番驚かされたのは鉄平の身に起きている事が明らかになった瞬間でした。(言われてみれば伏線はちゃんとあったのに全く気付かず。)その事実と鉄平の想いをあやめに伝えるほしみの叫び、そうしてようやく繋がった鉄平とあやめの心に胸が熱くなります。
交わらない想いを抱えたまま一つ屋根の下で暮らすのは辛いことです。家族って、人を好きでいることって、どういうことなんだろうと考えさせられました。ほしみの言葉を聞いていて、その一つは「信じること」なのだろうかと思いました。ただただ盲目的に信じるのは悲劇を生むけれど、きちんと目を合わせ会話をし、偽りない気持ちを伝えること、その気持ちを信じること、簡単なようでとても難しい、けれど側にいてそれが出来ないのは淋しいことだと思いました。

主人公・ほしみを演じた原田樹里さん、すごく素敵でした。ハマり役だと思います。
写真は終演後の「撮影OKタイム」に撮った「過去の名場面集」の内の一枚とカーテンコールの模様です。名場面集は今作『カレッジ・オブ・ザ・ウインド』のラストシーン。この後照明が落ちていってある物にスポットが当たるんですがそれがまたいいです。
30th名場面集『カレッジ・オブ・ザ・ウインド』
カレッジ・オブ・ザ・ウインドカーテンコール

公演は池袋サンシャイン劇場にて6/14まで。
是非たくさんの方に観て頂きたい作品です。

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漫画 『北走新選組』菅野文 [漫画]

新撰組の戊辰戦争時代を扱った作品です。

慶応三年、大政奉還。これを是としない旧幕府強硬派の中に、かつて京で名を馳せた新選組の姿があった。闘い続ける彼らは北へと転戦し、やがて蝦夷地へ至る……。
土方歳三を中心に義を信じ、義に殉じた新選組隊士達の姿を描いた短編集。

新選組を扱った作品で、戊辰戦争をメインに描いている作品は中々無いと思います。武士の時代の終焉、それでも自分達の信じたもののために、武士であり続けた男達の戦いぶりに心震えました。
少女漫画でありながら、戦闘や死の場面の描写に一切の容赦が無く、凄絶な彼らの戦いをきっちり描いています。

局長・近藤勇に最期まで付き従い、函館に転戦する土方と共に戦った隊士・野村利三郎の物語『碧に還る』。
命を預けた土方への憧憬と彼自身の武士としての生き様、そしてその壮絶な最期に涙が止まりませんでした。武士の時代が終わろうとする中で、武士でありたいけれど本当の武士って何なのか、苦悩しながら生き方を模索する姿と、見つけた生き方に殉じた彼の最期の言葉に心震えます。
彼が近藤から土方への言伝を告げたシーンも涙なしには見らません。彼の想いを受けた土方の言葉や行動にも熱い想いを感じて心打たれました。

土方から託され新撰組最後の隊長となった相馬主計の物語『散る緋』。
近藤の死を経て、野村利三郎と共に土方に従い函館で戦った彼は、戦友の野村、そして副長土方の死を目の当たりにしました。明治維新後、新選組の光も影も背負った彼は、土方の願い通りに新選組に幕を引きます。武士として新選組隊士として殉じたその壮絶な覚悟にまた涙が溢れました。

敗色濃厚な中、函館新政府の樹立に貢献した土方歳三の物語『殉白』。
「何の為に戦ったのか」近藤亡き後の戦いの中で自問する彼の姿は、強さの中に儚さが見え隠れして、まるで死に急いでいるようにも見え胸が痛みます。
この頃、寄せ集め集団の新選組を厳しく律し恐れられた鬼副長の顔はなりを潜め、陸軍奉行として先陣切って戦う激しさと、局長の近藤を失っても自分に付いてくる隊士達への優しさを見せていて、新撰組の為に在った彼の生き様とその最期に涙が止まりませんでした。

作者の創作部分もあり美化されている所もありますが、歴史にほぼ忠実で、作者の「歴史はファンタジーではない」という言葉にとても共感しました。
死を過度に美化する事無く、動乱の時代を生きて戦った彼らの想いや生き様が、端正な絵柄と重厚なシナリオで描かれた良作です。
新選組ファンにはもちろん、歴史好きな方にもお勧めです。



北走新選組 (花とゆめCOMICS)

北走新選組 (花とゆめCOMICS)

  • 作者: 菅野 文
  • 出版社/メーカー: 白泉社
  • 発売日: 2004/09/17
  • メディア: コミック


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演劇集団キャラメルボックス30th vol.1『パスファインダー』 [観劇]

続きまして『パスファインダー』です。
こちらは前述の原作小説を元にしたキャラメルボックスのオリジナルストーリーです。
(ネタバレを含みますのでご注意下さい。)

笠岡光春(かさおかみつはる)は23年前に亡くなった兄・秋路(しゅうじ)に会うため、クロノス・ジョウンターで過去へ飛ぶ。が、23年前に到着した瞬間、自転車で通りがかった少女と衝突。少女は頭を強く打ち、記憶を失ってしまう。が、「リン」という名前だけは覚えていた。光春は秋路とともに、リンの身元を調べることにするが……。
(公式サイトより)

憧れだった兄の本当の姿、突如現れたリン。序盤から怒涛の展開に惹きこまれます。『クロノス』の時代から数年が経ち、クロノス・ジョウンターの欠陥を補う装置が開発され(それでも現代に戻れないのは変わりませんが。)、光春は比較的自由に過去の世界で行動できます。憧れていた兄の本当の姿とその強い想いは、40代を目前にした光春の焦燥感との対比になっていて、充実している兄と現在の自分との差に揺れる光春により一層共感を抱きました。
そして突如現れたリン。生意気盛りな彼女の境遇が明らかになって行き、複雑な境遇に置かれた彼女の子供らしさと、彼女と行動を共にする光春の優しさとにジーンとしました。余談ですが昨年夏の『涙を数える』の南条を演じた方と同一人物というのに驚きです。幅広い役を演じられるって凄いです。
そしてリンとある人物との繋がりに驚きを隠せませんでした。あの時点で全て解っていたその人物が、何を想って事の行く末を見守っていたのか、そして自らもクロノス・ジョウンターに乗るという想いの深さに心打たれました。
そして何といっても強烈なインパクトを残したのが劇中に登場する○○さんの××××(重大なネタバレにつき伏字)です。思わぬファンサービスにテンション上がりました。

こちらも間もなく公演が終わってしまいます。
原作ファンの方にも楽しめるのではないかと思うので是非観て頂きたいです。
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演劇集団キャラメルボックス30th vol.1『クロノス』 [観劇]

演劇集団キャラメルボックスの30周年記念公演第一弾『クロノス』『パスファインダー』を観てきました。
まずは『クロノス』から。

物質を過去に飛ばす機械、クロノス・ジョウンター。吹原和彦(すいはらかずひこ)は研究員として、この機械の開発に携わっていた。ある日、会社の近くの交差点で、タンクローリー車が横転し、角の花屋に突っ込む。花屋の中には、吹原が中学時代から思いを寄せていた蕗来美子(ふきくみこ)がいた。事故が起きる直前に行って、彼女を助けよう! 吹原はクロノス・ジョウンターに乗り込み、自分自身を過去へと飛ばした……。
(公式サイトより)

この作品は梶尾真治さんの『クロノス・ジョウンターの伝説』という短編集を元に作られています。10年前に初演された作品で、ずっと再演を期待していました。

このクロノス・ジョウンター、ドラえもんなどに登場するような完璧なタイムマシンではありません。過去の世界に留まれるのは僅かな時間、しかも現代には戻って来られず、元いた時代より先の未来へ飛ばされてしまいます。
事故から彼女を救おうと過去へ飛んでは邪魔が入って失敗し、それでも諦めずに何度も過去へ飛ぶ吹原。過去へ行く度に体力を消耗し、更に飛ばされる未来は現代からどんどん遠くなるにも関わらず、彼女を助けられるまで飛び続ける姿に胸が詰まりました。昨年冬の『太陽の棘』を観た後でもあるので、残された家族や友人達の気持ちにも感情移入して、吹原と来美子はただの同級生、恋人でも何でもない吹原の片想いなのに、どうしてそこまで出来るのだろうと胸が痛くなります。(恭一と吹原では状況が全然違いますが。)吹原の同僚・藤川の「諦めは逃げじゃない、一時的な撤退だ」という趣旨の台詞が印象的でした。過去で邪魔が入る度にもどかしくなると同時に、誰も泣かせず来美子を救って、吹原自身も報われる、そんな道は本当に無かったのかなと思われてなりません。
真っ直ぐな吹原の想いと彼を見送り案じる周囲の人達の想いに心打たれました。

間もなく公演は終わりますが、是非たくさんの人に観て頂きたい作品です。

原作小説はこちらです。

クロノス・ジョウンターの伝説 (徳間文庫)

クロノス・ジョウンターの伝説 (徳間文庫)

  • 作者: 梶尾 真治
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2015/02/06
  • メディア: 文庫



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ファンタジー漫画『魔法使いの嫁』 [漫画]

現代が舞台のファンタジー漫画です。
少女を金で買ったのは、ヒト為らざる魔法使い――……。
羽鳥チセ15歳。身寄りもなく、生きる希望も術も持たぬ彼女を金で買ったのは、ヒト為らざる魔法使いだった……。

英国、魔法使い、妖精……、私の好きな要素てんこ盛りでどっぷりハマりました。絵がとても繊細で、絵柄と幻想的な世界観がマッチしていると思います。

チセは生まれつき妖精やその他不思議なものが見え、周囲から忌避されていました。生きる事に失望した彼女は自ら競りにかけられる事を望み、そして大魔法使い・エリアスに買い取られます。人身売買で買われた少女が買われた先でも酷い目に遭う、というのはよくあるパターンですが、チセを買ったエリアスは極めて紳士的にチセを保護し、自分の弟子に、更にはお嫁さんにすると告げます。
人間嫌いと言われあまり外に出る事も無かったエリアスが、稀有な力を持つチセを手に入れた目的は、そしてお嫁さんにするという発言の真意は何なのか? そして次々と起こる事件、そこでチセが得ていくもの、序盤から怒涛の展開で惹きこまれます。
エリアスや他の魔法使い、妖精達が当たり前のように存在する世界。周囲から愛された事の無いチセは、エリアスや彼を取り巻く人、妖精達からの優しさや好意にどうしていいか分からず、ただただ謝ったり状況に流されて過ごします。そんな姿がとても痛々しいと同時に惹き込まれました。エリアスも人間だけでなく他の魔法使い達とも距離を置いて過ごしてきたようで、何が彼をそうさせていたのか、そしてチセを側に置く事でどう変わっていくのか。境遇は違えど、周りと距離を置いて生きてきた二人の関係は、今のところ師と弟子であり父と娘のようでもあり、飄々としたエリアスと諦観を抱くチセがどう変わって行くのか楽しみです。
まだまだ謎も多く、今後の展開からも目が離せません。
魔法使いの嫁(1) (ブレイドコミックス) (BLADE COMICS)

魔法使いの嫁(1) (ブレイドコミックス) (BLADE COMICS)

  • 作者: ヤマザキコレ
  • 出版社/メーカー: マッグガーデン
  • 発売日: 2014/04/10
  • メディア: コミック
魔法使いの嫁 2 (BLADE COMICS)

魔法使いの嫁 2 (BLADE COMICS)

  • 作者: ヤマザキコレ
  • 出版社/メーカー: マッグガーデン
  • 発売日: 2014/09/10
  • メディア: コミック


魔法使いの嫁 通常版 3 (BLADE COMICS)

魔法使いの嫁 通常版 3 (BLADE COMICS)

  • 作者: ヤマザキコレ
  • 出版社/メーカー: マッグガーデン
  • 発売日: 2015/03/10
  • メディア: コミック



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演劇集団キャラメルボックス アラカルト 『太陽の棘』 [観劇]

続きまして『太陽の棘』の感想です。

見知らぬ子供を助けて事故死した恭一。弟の亮二は恭一の恋人・明音を気遣いながらも、傷心の彼女にどうしたらいいか解らずにいた。そんな中、亮二は恭一の遺品の本から恭一宛の謎めいた手紙を見つける。亮二の従妹・はるかは悩む亮二を叱咤し、半ば強引に明音を誘って手紙の主「フウケイボウ大博士」を探すため岩手<イーハトーブ>へ向かう。
亮二は恭一の想いを理解し明音の心を救う事は出来るのか。

英雄視される恭一の死に、混乱する明音と亮二。傷心しきった明音はとても痛々しく、彼女の悲痛な言葉が突き刺さってきます。そして、自分も混乱の中にいながら何とか明音の心を救いたいと奔走する亮二の真っ直ぐな姿と叫びが、優しく時に激しく心に突き刺さってきて、涙が止まりませんでした。
恭一の遺品で亮二と明音が手にする宮沢賢治の童話『ペンネンノルデの伝記』は自分を犠牲にしてイーハトーブの人々を救った少年ペンネンノルデの物語。恋人を残してイーハトーブを救ったノルデと、子供を助けて死んでしまった恭一の姿は否応なしに重なり明音を苦しめます。宮沢賢治が好きだったという恭一の言葉や心は賢治をなぞっただけだったのではないか、彼の本当の心はどこにあったのかと悩み苦しむ明音の頑なに閉ざされた心と悲痛な叫びは、生々しい言葉となって吐き出され胸を突き刺します。「それは言うたらアカンやつや(涙)」と思う言葉も容赦なく飛び出し、明音の深い悲しみに涙が溢れます。
そして、そんな明音を救いたいと奔走する亮二の、彼自身が抱えた混乱やもどかしさ、そして恭一の明音への想いを伝えようと必死に叫ぶ姿。その嘘の無い真っ直ぐさに心打たれてまた涙が溢れました。

『太陽の棘』は昨日の千秋楽にも観に行きました。2回目を観て感じたのは、後半の恭一と亮二のやり取りやそれを受けてフウケイボウ大博士に充てた恭一の手紙をみて、恭一には自己犠牲なんて意識はなくて、子供を助けて自分もちゃんと明音の所へ戻って来るつもりだったんじゃないかという事です。自分は色んな人に生かしてもらって、今とても幸せだから、今度は自分が誰かの幸せの為に何かしなきゃいけない。そう語った恭一ですが、その誰かには明音や自分自身も含まれている事を彼はちゃんと解っていたのではないかと感じました。恭一は宮沢賢治に憧れ心の支えにしていましたが、賢治になろうとしていたわけではないんじゃないかと思います。
恭一の想いを知り、「私は大丈夫」と言った明音の強い言葉にもまた涙が溢れました。

この作品で初主演した鍜治本さん。真っ直ぐで嘘の無い言葉と必死に奔走する姿が胸に刺さってきてとっても心揺さぶられました。素敵です。本公演で主演を張る日もそう遠くないんじゃないかと感じました。
そして亡き人として大きな存在感を放つ恭一とその心を追う亮二、2人の関係は演者の多田さんと鍜治本さんの関係に似ているように思いました。

外部の脚本家の方に脚本を依頼するという実験的な試みで(前述した明音の容赦ない言葉は普段のキャラメルボックスなら出てこない言葉ですね)、東京のみでの公演、さらに8日だけという短いステージ、とてももったいないなと思います。
是非DVD化を、そして同じキャストでの再演を心待ちにしたいです。

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演劇集団キャラメルボックスクリスマスツアー『ブリザードミュージック』 [観劇]

先週、演劇集団キャラメルボックスのクリスマスツアー『ブリザードミュージック』と『太陽の棘』を観てきました。

まずは『ブリザードミュージック』の感想から。

「若人よ来たれ!君もクリスマスに芝居をやらないか!」
クリスマスの1週間前、新聞広告を見た5人の俳優たちが、池袋の劇場に集まってくる。しかし、彼らの前に現れたのは、演劇経験の全くない、90歳のおじいちゃん。元小学校教師の梅原清吉だった。彼は、70年前に書いて、上演できなかった脚本を、自らが主演して、上演したいと言う。スタッフは清吉の家族たちで、もちろんみんな演劇未経験。俳優たちは最初激しく反発するが、清吉の情熱に打たれ、次第に本気になっていく。
本番はクリスマス。はたしてたったの1週間で、芝居は完成するのだろうか?
(公式HPより)

「クリスマスはジジイが頑張る日。」という台詞があり、主人公は90歳の清吉なのですが、私の興味は集まった5人の俳優達の方に向かいました。
我が強く個性的な5人は初対面、最初はバラバラだった皆の気持ちが、「この舞台を成功させよう」と一つになっていく様に胸が熱くなります。何度も衝突しながら一つの舞台を作り上げていく、華やかな舞台上は楽しいだけじゃなく大変な事辛い事も多いけれど、情熱をかけられるものがあるって素敵な事だと感じさせてくれます。終盤の「金が欲しけりゃ役者なんてやってない!」という台詞に心打たれました。
清吉の脚本に総ダメ出しをし即興劇から台本を作り上げていく事になり、その内容は70年前の清吉に何があったのか、というもので当時清吉が書いた脚本を上演出来なかった理由や清吉の想いが明らかになっていきます。宮沢賢治を崇拝し彼の作品を広めたいという仲間達の想い、恋い慕う女性・ミハルへの秘めた想い、上演を中止せざるをえなかった事情、劇中劇で語られる当時の人々の様々な気持ちと、現在の清吉や俳優達の想いが交錯し、心を一つにしていく一同の姿にジーンとしました。

とはいえ少し疑問を感じたところもあります。
過去も現在も、清吉の想いはミハルへの告白の一点にしかなかったのかなという所が気になりました。宮沢賢治の作品を世に広めたい、そんな情熱から立ち上げた計画だったはず。上演出来ないとなった後も、清吉の気持ちは賢治よりミハルにあったように思えてならず、当時の他の仲間との温度差と、この作品そのものが宮沢賢治を題材にした必然性はどこにあったのかな、というのが気になっています。
私の読みが足りないのでしょうか……。

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