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内村光良監督作品『金メダル男』 [映画:劇場]

内村光良監督作品第三弾、『金メダル男』を観てきました。

東京オリンピックの開催に日本中が沸いていた1964年。長野県塩尻市に、ひとりの男の子が誕生した。
彼の名は秋田泉一。幼少時はごく普通のぼんやりした男児だったが、小学生の時に、運動会の徒競走で一等賞に輝いたことで人生が一変する。一等賞がもたらす幸福感にすっかりとりつかれてしまった泉一。ありとあらゆるジャンルで一等賞を獲りまくり、いつしか「塩尻の金メダル男」と呼ばれるまでになっていた。
ところが中学に入学すると、異性のことが気になり始め、集中力を欠くようになったのだ。一等賞からすっかり見放された泉一は高校で巻き返しを図るが、勉強もスポーツも上手くいかない。
それはめくるめく、七転び八起人生のはじまりに過ぎなかった……。

随所に内村さんらしさが漂い、くすっと笑えてじーんとする楽しい作品でした。
まず目を惹かれるのは、内村さんとW主演で若い頃の泉一を演じた知念侑李さん。メイクや髪型の印象もありますが、ふとした表情や仕草、視線の遣り方、淋し気に歩く後姿など内村さんとよく似ていて、「この人が歳を重ねてこうなった」という説得力があり、研究したんだろうなぁと感じさせてくれました。また、高い身体能力で魅せてくれたり、女の子にぽぉーっとなったり歌舞伎の見得を切ったりと振り切れた変顔も見せてくれたり、役者としての今後が楽しみな方でした。
豪華なキャストもまた見所の一つです。「え!? この方にこんなことさせるの?」「この方の出番、これだけ!?」と驚くようなキャスティングもあり、今後の作品につながるのではないかという出会いも感じさせます。
七転び八起な泉一の人生、「あらゆることで一位になる」とブレない精神で何かを見つけ走り出しては迷走し、壁にぶつかって挫折し居場所を失って、それでもまた何かを見つけて走り出す。逞しい彼の生き様は、なかなか真似できるものじゃありませんが、人生において何かに打ち込んだことは決して無駄にはならないと思わせてくれます。冷静に考えると「あなた一体何がしたいんですか……?」「そりゃ駄目になるよね……」と思わせる所も、周りの人物からの言葉やアクションで、本人が気づいていない自身の迷走ぶりや滑稽さを際立たせていて面白いです。何かに夢中になったりがむしゃらに打ち込む事は時に滑稽に映ったりもするけれど、それは決してかっこ悪い事無駄な事なんかじゃないんだと気づかせてくれます。
終盤、50歳を超えた泉一の目が捕えた、何気ないけど大切なものに胸を打たれました。そしてそこからまた始まる彼の物語は、何かに挑戦するのに遅すぎる事はないと力づけられます。
挫折を繰り返しても立ち上がる泉一に「あんたには何かある」と泉一の背を押してくれた母と、脚光を浴びた後低迷してしまった彼に「またやればいいじゃない。私も手伝うから」と寄り添う妻の存在感がとても温かいです。そしてエンディングで流れる桑田佳祐さんの楽曲『君への手紙』は、疾走し続ける泉一と彼を応援する周囲の人々の物語にぴったりでジーンとなりました。
泉一は物語の主人公ですが万能のヒーローでもなく、大恋愛をするわけでもなく、ごく普通の男性です。そんな人間臭い彼が迷走し挫折を繰り返しながらも立ち上がる姿、周囲を困惑させたり笑われたりしながらも自分の信じた道を突き進む姿に惹きつけられました、
「諦めない事が大事」、子供の頃から泉一が言い続け彼の指針になっていた言葉です。諦めない事、失敗や周囲の目を恐れない事、そして何より楽しんで挑む事、そんな風に肩肘張らずに生きる力をくれる温かな作品です。

内村さん自身が執筆した小説版は映画とはまた少し違った展開になっています。文章から内村さんの声が聞こえてくるようで、映画と共に内村さんらしい作品です。

金メダル男 (中公文庫)

金メダル男 (中公文庫)

  • 作者: 内村 光良
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2016/06/23
  • メディア: 文庫



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