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演劇集団キャラメルボックスグリーティングツアー『無伴奏ソナタ』 [観劇]

演劇集団キャラメルボックスの公演『無伴奏ソナタ』東京公演初日を観てきました。

すべての人間の職業が、幼児期のテストで決定される時代。
クリスチャン・ハロルドセンは生後6か月のテストでリズムと音感に優れた才能を示し、2歳のテストで音楽の神童と認定された。そして、両親と別れて、森の中の一軒家に移り住む。そこで自分の音楽を作り、演奏すること。それが彼に与えられた仕事だった。彼は「メイカー」となったのだ。メイカーは規制の音楽を聞くことも、他人と接することも、禁じられていた。
ところが、彼が30歳になったある日、見知らぬ男が森の中から現れた。
男はクリスチャンにレコーダーを差し出して、言った。
「これを聴いてくれ。バッハの音楽だ……」
(公式サイトより)

2年前の初演を観られなかったので、今回の再演はとても嬉しかったです。
メイカーのみならず全ての人々が法で人生を決められる時代に、何度凄惨な罰を受けても音楽を作ることをやめられなかったクリスチャンの生き様に惹きつけられました。彼を監視し罰を与える「ウォッチャー」に「いけないとわかっていても止められなかった」といった旨の事を告げるクリスチャンの表情に、彼は生まれついての音楽の天才というだけじゃなく、音楽を楽しみたい愛したいという強い想いを感じました。
そして、一番心打たれたのは終盤、ずっとクリスチャンを監視し続けてきたウォッチャーのある告白でした。ネタバレになるので詳細は伏せますが、どんな想いでクリスチャンから音楽を奪ってきたのか、またそれを受けて最後の罰を受け入れたクリスチャンの気持ちも、想像すると胸が痛みます。2人の関係性は、「ウォッチャー」と「監視される元メイカー」というだけでなくもっと深い繋がりを感じました。
メイカー時代、クリスチャンの世界は無音だったのではないかと思います。静かな森の家で、彼を煩わせるものは何もなく自由に音楽を作り演奏する事が出来ました。「クリスチャンの音楽は世界中で愛され演奏されている」という事実だけが彼のもとに届いています。聴衆の生の反応が無い、それは無音に等しい事だと思います。創作をする上でそれは何より辛い事です。物心ついた時からそれが当たり前だった彼は、そんな状況を幸せだと思っています。けれど森の家を追われ音楽を禁じられ、自分の音楽を愛している人々を実際に目にし、誰かの為に演奏し歌う事、仲間の為に音楽を作る事、今まで封じられていたそういう喜びを感じて、音楽に触れずにいる事なんて出来るわけがありません。その度に凄惨な罰を受け多くのものを失った彼ですが、最後の罰から解放されて、老齢のクリスチャンはこれまで関わった人々に会いに行った先で、メイカーではなくなった自分が作った音楽を、見ず知らずの若者達が歌っているのを耳にします。そしてラストシーンで彼の耳に響く喝采に、これまでの凄惨な人生を思い返しようやく訪れた救済に涙が溢れました。
厳格な法律とそれによって守られているという人々の幸せ。幸せって何かと考えさせれらます。

公演期間は短いですが、ぜひたくさんの方に観て頂きたい作品です。
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