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小説『ガリレオの苦悩』 東野圭吾 [小説]

2011年に発売された東野さんのガリレオシリーズ短編連作です。
内海刑事も登場し、物語に彩を沿えています。

“悪魔の手”と名のる人物から、警視庁に送りつけられた怪文書。そこには、連続殺人の犯行予告と、帝都大学准教授・湯川学を名指して挑発する文面が記されていた。湯川を標的とする犯人の狙いは何か?常識を超えた恐るべき殺人方法とは?邪悪な犯罪者と天才物理学者の対決を圧倒的スケールで描く、大人気シリーズ第四弾。

作品内の時間としては、長編『容疑者Xの献身』のすぐ後になります。「もう警察には協力しない」と言った湯川ですが、親友・草薙刑事の紹介を受けて来たという内海刑事に興味を持ち、再び捜査に協力するようになります。
内海刑事はドラマ版とは性格が違っていて、私は小説版の彼女の方が好きです。自分が女であることを嘆く姿を湯川に皮肉られはっとするシーンや、女性視点での物事の捉え方などがリアルで、草薙刑事とはまた違った名コンビ振りを今後も見られそうです。
「科学を殺人に使う人間の事は許せない」そんな正に科学者の信念の下、不可解な現象を解きながら事件に当たる湯川の姿に、これまでの作品よりも強い人間臭さを感じました。科学者としての信念は揺らいでいませんが、断罪するだけでなく、切羽詰った状況で殺人にいたるまで追い詰められた犯人には救いを差し延べる温かさが見られます。湯川の恩師が事件に関係していると察した彼の心の痛み、恩師を取り巻く複雑な人間関係、真相を暴いた後の湯川の台詞に、彼の苦悩が滲み出ていて胸を打たれました。
また、大切な人が事件に関わっているかもしれないと苦悩し、非科学的といわれている方法で真相に近付こうとする少女に背中をそれとなく押してあげる真摯な優しさも見られます。
前作で親友・石神が起こした事件が彼の心境に少しの変化をもたらしたように思いました。

ガリレオシリーズはやはり短編の方が、事件発生から登場人物達のやり取り、真相解明までの流れに緊迫感がありテンポも良くて面白いと思います。
東野さん自身の作風も、初期のトリックを重視したミステリーから人間ドラマを描く方向へ変わっている事もあり、天才・湯川学の人間的な温かさや、事件を起こさざるを得なかった加害者の背景とそれを見た湯川の想い、揺るがない信念と現実の間で苦悩する湯川、彼を取り巻く人々との繋がり、今後も魅力的なドラマを展開してくれそうです。




ガリレオの苦悩 (文春文庫)

ガリレオの苦悩 (文春文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2011/10/07
  • メディア: 文庫



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