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劇団ZAPPA第15回公演「鬼ONI」 [観劇]

昨日、劇団ZAPPAの第15回公演「鬼ONI」お昼の回を観てきました。
(ネタバレあり注意)

「もう助からない……」
そう医者は言った。
ぐったりとしたわが子を抱きかかえ、母親は洞窟へと続く山道を登り始めた。
そこには鬼が棲むという。
人を喰らうその鬼は気まぐれに命を助け死者を蘇らすという……。

「奴の出現で医学の時間が進むかも知れんぞ! 五十年、いや、百年先までな!」
「そんなにうまくいくものか! 人に、鬼は飼いならせない!」
幕末のブラックジャック現る!
鬼伝説をモチーフに、幕末激動の時代を駆け抜けた蘭方医たちの壮絶な戦いを描く感動作。
(パンフレットより)

昨年の「花hana」を初めて観てすっかり虜になった劇団ZAPPA。
何よりもまず華麗な殺陣に目を奪われます。比較的小さな劇場だったのですが、舞台の小ささを感じさせないパワーと迫力に圧倒されます。舞台狭しと駆け回り、客席の間の花道から舞台へと駆け抜ける役者さん達の姿に魅了されました。

この物語は、漢方が主流だった時代に蘭方を広めようとする医師達の戦いと、大老・井伊直弼を討とうとする浪士達の戦いの2つを軸に進んでいきます。

蘭方医シーボルトの元で蘭方を共に学んだ3人の医師、春山、玄朴、鼎哉は江戸で猛威を振るう流行り病・疱瘡(天然痘)を撲滅すべく、種痘(現代の予防接種)を広めようとします。しかし、シーボルトがスパイ容疑で国外追放された事件を機に蘭方は禁止されてしまいます。多くの人々が疱瘡で苦しむ中、種痘を研究し広めようとする春山達。後に春山の妻になる女性・花は、まだ確立されていない種痘を自ら受けると言い出し、その後も大きな愛情で春山達を支えます。その献身的な行動と強い想いに胸を打たれました。
しかし、そこへ立ちはだかる奥医師(将軍家を診る事ができる唯一の医師……「おく」の字はこれで合ってるんだろうか?)の多岐。患者をろくに診もしないいい加減な仕事ぶり、病に苦しむ人を利用し自分にとって不都合な春山達を妨害したりなどなど、奥医師の立場を利用して人の心や命を踏みにじる多岐の姿に激しい憤りを感じました。
ある日、春山の診療所で働くシーボルトの娘・イネの元に現れた天真爛漫な青年・タダ。春山と既知の仲らしいタダはイネを「許婚」と言います。当然、猛反発するイネ。のほほんとした雰囲気とは裏腹に、呼吸も脈も停止していた人を蘇らせたり、斬り落とされた腕を繋いで元通りにしたりと、奇跡的な医療技術を持つタダ。彼は何者なのか? 謎めいた存在感と純粋な優しさと、純粋ゆえの残酷さも垣間見せるタダはとっても魅力的でした。
そして「シーボルトの娘」という肩書きに苦しむイネ。自分と母を捨て去った父、医師を志す彼女にとって、その肩書きは誇りというよりも「憎いけれど縋らなきゃ生きていけないもの」のようで、気丈に振舞うイネの寂しさを感じて胸が痛みます。同じ診療所で働く女郎出身の医師・おげんと、互いの出自や出生を巡って繰り広げられた大ゲンカと、その後イネが目にしたおげんの献身的な医師としての姿に圧倒されたイネは診療所を出て行こうとするのですが……。終盤、タダの口から語られた父・シーボルトの真相に、イネ同様涙が零れました。

一方、「井伊の赤鬼」と呼ばれた大老・井伊直弼の弾圧に憤る浪士達。
国を、仲間を想う彼らの熱い気持ちに心を揺さぶられました。
井伊討伐の筆頭である日下部祐之進の妹・律と、薩摩出身の浪士・有村冶左衛門の恋模様はほのぼのとしていて、妹達を冷やかす兄・祐之進とのやりとりは、緊迫した場面が続く中で心和む一場面です。
この時の井伊討伐シュミレーションと前述のイネとおげんの大ゲンカのシーンが、全く違う場所で起きている場面なのに、一連の殺陣で同時進行する演出が演劇ならではで面白かったです。(観てない人には伝わりづらい説明ですが……。)
井伊討伐に一丸となる浪士達ですが、必ずしも全員が同じ方向を見ているわけではなく……。様々な思惑が交錯し命を落とす者も現れ、そして冶左衛門が襲撃を受け倒れたと知った律が、兄に「私も作戦に参加させてほしい!」と願い出るシーンに、彼女の冶左衛門への強い愛と決意を感じて涙が滲みました。

終盤、3月3日の季節はずれの雪の中。
多岐によって奪われたいくつもの命を前に、憎悪に捕らわれた鼎哉は疱瘡を江戸中にばら撒こうとします。
井伊討伐に燃える浪士達は、大名行列を組んで桜田門へ向かう井伊直弼の首を狙います。
春山達は疱瘡が江戸中に広まるのを止めるため奔走。そして怪我人を手当てするため桜田門へ向かうタダ。しかしタダの前に多岐が現われてタダに刃を向けます。とことん憎い男です。重傷を追いながらも桜田門へ駆けつけたタダ。手当てを終えて倒れたタダの元へ駆けつけたイネ。見た事もないタダの医療道具を前になす術のないイネ。「たくさんの人を助けたくせに、あんたの事を助けられる人はいない!」といった趣旨のイネの叫びと、タダのイネを気遣う優しい笑いに涙が溢れました。
天真爛漫なタダと勝気で気丈に振舞うイネはとっても可愛いカップルで、この2人には幸せになってほしかったなぁと思います。

桜田門外の変が起き、奥医師の多岐は解任され、種痘がようやく広まります。希望と元気を貰えるラストシーンでした。
いつの時代も、鬼を生み出すのは人間の欲や負の感情であって、そして鬼を制することが出来るのも、人間の愛や希望なんだろうなと思います。
とっても素敵な舞台でした。


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ふじたまworld

鬼を生み出すのは人間の欲や負の感情・・・。
そうですよね・・・。鬼は人間の心の中にいる気がします。
その人を愛するゆえに鬼になる・・・というのもありますね・・・。

海外ドラマのCMのコピーで、・・・人を傷つけることも・・・すべては愛から・・・、とい言葉でも愛ってなんだろうと思います。いろいろな愛の形があり、愛ってそのものを思えばこそ・・・ってことなんでしょうか・・・。
by ふじたまworld (2010-05-02 08:55) 

リュカ

>ふじたまworldさん
鬼は人間の心の中にいる、その通りなのでしょうね。
人を鬼に変えてしまうほどの強い想い、愛もまた欲の一つでもあり、無償の愛なんてものもあったり、愛って人を何かに向かわせるものなのでしょうかね。

by リュカ (2010-05-03 20:38) 

axe

ご来場ありがとうございました。
碧組、元を演じていた斧口です。

リュカさまの感想、非常に興味深く拝見させていただきました。
僕個人も、役者として、その思いに応えられるものが残せていけたらなぁと思います。
by axe (2010-05-10 17:16) 

リュカ

>axeさん
コメントありがとうございます~!
役者さんからコメント頂けるなんて感激です!
思った事感じた事たくさんありすぎてうまく言葉になりませんが、素敵な舞台を観させて頂いて感動しています。
これからも応援していきます!
by リュカ (2010-05-10 21:32) 

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