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海外小説『奇岩城』 モーリス・ルブラン [小説]

1909年に発表されたアルセーヌ・ルパンシリーズ初の長編作品です。
ルパンシリーズ最高傑作、ルブランの代表作とも言われる作品です。
注:若干のネタバレを含みます

ある日の深夜、物音に目を覚ましたジューブル伯爵の姪・レイモンドは、従姉妹のシュザンヌと共に窓から庭園を見下ろした。すると侵入者達が大きな荷物を屋敷から運び出しているのを目にする。そして取っ組み合うような音と悲鳴が聞こえた。居間へ走った2人は見知らぬ男と鉢合わせる。男はランタンで2人の目を眩ませると姿を消した。伯爵の秘書・ダヴァルがナイフで斬られ死んでいるのを見たレイモンドは銃を手にし、居間から立ち去り逃げていく男を追って発砲した。銃弾は確かに男の身体を貫いたように見えたが、負傷した男はそのまま何処かに姿を隠してしまう。
翌朝、いくら調べても屋敷からは何も盗まれた形跡は無かった。撃たれた男が怪我を負った跡も見つかったが、敷地から男が出た形跡は無く、敷地内のどこを探してもその姿は見つからなかった。刑事達が首を捻る中、新聞記者に紛れて屋敷に来ていた高校生の少年イジドール・ボートルレは、盗難事件の真相と犯人の名を告げる。事件はアルセーヌ・ルパンの仕業であると言い、ボートルレは判明した事実や状況、レイモンド達の証言から盗難事件と撃たれた後の失踪のトリックを暴き、敷地内にある礼拝堂の地下で不審者の死体を発見した。稀代の大怪盗アルセーヌ・ルパンの死、このニュースは新聞によってフランス中に知れ渡り、ボートルレは一躍ヒーローとなった。だがボートルレの元に「手を引け」と警告が放たれ、ルパンの手下達によりレイモンドを誘拐されてしまう。ボートルレは謎の暗号が書かれた紙切れを手に入れレイモンドの行方を追い、ルパンが仕掛けた冒険に巻き込まれていく。やがてボートルレは暗号から<エギーユ・クルーズ(空洞の城)>という言葉を導き出す。それは代々フランス王家の宝を巡る歴史上の重大な秘密であった―

アルセーヌ・ルパンシリーズですがこの作品の主人公は少年探偵ボートルレです。ボートルレの視点で謎を追っていくのですが、あまり姿を見せないにも関わらず、ボートルレと頭脳戦を繰り広げるルパンの存在感は強烈です。
ルパンに勝るとも劣らない頭の良さと度胸、そして少年らしい好奇心を持ったボートルレをルパンは「自分の邪魔をする敵」としながらも気に入り、ボートルレの捜査を妨害しながらも彼がエギーユ・クルーズの秘密へ辿り着く事を確信しそれを楽しんでいるようでもあります。対するボートルレも、ルパンに脅しを受けたりしながらもどこかでルパンを憎みきれず、目の前のエギーユ・クルーズを巡る冒険に惹き込まれていきます。彼らは歩む道こそ違えど、その性質は似た者同士だったのかもしれないと思いました。
暗号、そしてエギーユ・クルーズの秘密は中世フランスの歴史に詳しければより楽しめるだろうと思います。もちろん、フランス史の知識が無くてもボートルレが丁寧に謎を追っているので、彼と共に冒険を楽しめます。
フランス王家の歴史上の秘密を解き、エギーユ・クルーズを手にしたルパンはこの城を隠れ処にして活動していました。そして盗みに侵入したジューブル伯爵の屋敷でレイモンドと出会い、2人は恋に落ちます。けれど、ルパンは法を犯して生きる悪漢であり、ルパンがルパンである限り伯爵令嬢のレイモンドと結ばれる事はできません。そこでルパンは偽りの名と姿を手に入れレイモンドと正式に結婚を交わします。ボートルレが全ての謎を解きエギーユ・クルーズへ足を踏み入れた先で、ルパンはレイモンドと共にボートルレを待っていました。ボートルレは心から愛し合う2人の姿を目の当たりにします。そしてルパンはボートルレに、レイモンドの為にこれまでの冒険を全て捨て、真っ当な人間として彼女と共に穏やかな人生を送るんだと告げました。これまで苦労して集めた美術品や財宝、うってつけの隠れ処でありルパン好みの美しい景観を持つエギーユ・クルーズも手放すと言ったルパンの、レイモンドへの愛情は本物なんだと感じました。けれど、偽りの上に交わされた結婚は実を結ぶ事は無く。迫るガニマール警部と部下達の包囲を抜け、レイモンドとの暮らしの為に用意した農園へ向かった先には、イギリスから来ていたシャーロック・ホームズが待ち構えていました。そして訪れた悲劇。最後の瞬間まで愛し合っていた2人の姿、そしてルパンの怒りと深い悲しみに涙が滲みました。
ルパンは農園に向かう船の上で、「いつか彼女は私がルパンだって事を忘れてくれるだろうか? 彼女の記憶から、この忌まわしい過去を消し去る事ができるだろうか?」と語ります。そして全てを捨て真っ当な男として彼女を愛するのだからきっと忘れてくれると自分に言い聞かせています。明るい未来を半ば確信しているルパンに対し、悲しげな目をして不安げに震えるレイモンド。どんなにルパンが過去を捨て生き直そうとしても、過去は消えないのだと、ルパンは怪盗として生きるしかないのだと暗示しているようでした。

また、この作品の結末はホームズファンにとっては不快なものであり、ルパンファンにとってはホームズに対する嫌悪感を招きかねないものとなっています。
原作では、コナン・ドイルの厳重な抗議を受けた後、ホームズのイニシャルを入れ替えた「エルロック・ショルメ」という名のイギリス人探偵としており、ホームズとは容姿も性格も異なる別人という事になっています。が、翻訳版ではショルメがホームズのパロディである事を示す為なのかそのままホームズと訳されています。ドイルのホームズとは違い卑劣な手段も平気で用いたりする点や、他のルパン作品に登場するホームズの助手・ワトソンは「ウィルソン」と名を変えたまま登場している事、そしてホームズのウィルソンへの尊大な態度などから、「ホームズとショルメは本当に別人」と考える人も多いようです。ホームズもルパンもどちらも好きな私も、その一人です。


奇岩城 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

奇岩城 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 作者: モーリス ルブラン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2006/05
  • メディア: 文庫



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コメント 2

駅馬車

これは子供のころに読みましたよ(^^)
最後までルパンのほうが一枚上手ってのが良かったんだけど、ホームズの件は良くわからなかったなぁ。
ホームズは客演だから何でもありって思ってたのかも(^^;
私が読んだものもホームズの名前のままでした。
by 駅馬車 (2009-03-18 16:12) 

リュカ

そうなんですよね、ボートルレもいい線なんですが、やっぱりルパンの方が上手なんですよね^^

ホームズはこの作品では、ガニマール警部と共にぐるぐるに縛られて攫われたり人質とるような真似をさせられたりと散々な扱いです^^;
別人なんだと思いたいですね~。

by リュカ (2009-03-20 00:13) 

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