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青年漫画『最終兵器彼女』 高橋しん [漫画]

「ビッグコミックスピリッツ」で、2000年1月から2001年10月にかけて連載された高橋しんさんの作品です。コミックスは全7巻。

北海道の都市で暮らすごく普通の高校生、シュウジとちせ。内気でどじなちせは以前から憧れていた陸上部のシュウジに度胸試しとして告白、シュウジはちせの容姿に惹かれちせの告白を受け入れる。共に奥手な2人は付き合うとういうのがどういう事かわからず暫くぎくしゃくするが、一緒に登下校し交換日記をしながら初々しい交際を始める。
だがある日、正体不明の敵に札幌市が空襲を受けた。爆撃から必死に逃げるシュウジは信じられないものを目にする。それは両腕を巨大な武器に変え、背中から鋼鉄の羽根を生やした人間兵器と化して敵と戦うちせの姿だった。ちせは政府に選ばれ身体を改造された「最終兵器」だという。状況を受け入れられないシュウジをよそに、国籍不明の軍隊との戦争は激化し、ちせは頻繁に戦場へ呼び出され「お仕事」として敵を殲滅していく。その残酷で容赦ない姿は敵も味方さえも恐れさせる。兵器と化したちせに怯えるシュウジ、兵器となった自分の身体を恥じるちせ。それでも2人はちせが生きている証として恋を続けようとした。
「人として生きていたい、恋をしていたい」そんなちせの願いも虚しく、ちせの兵器としての性能はどんどん向上していくが、ある時故障をきっかけに肉体も精神も人間とは程遠いものとなっていき、ちせはシュウジの前から姿を消した。
クラスメイト達にもそれぞれの想いを抱え自衛隊に入隊し戦争に参加する者や、空爆や震災に遭い命を落とす者もいた。壊れていく日常。シュウジは再び姿を見せたちせを連れ、戦争から逃げるようにして町を出たのだが……。

突飛な設定に最初はかなり戸惑いましたが、読んでいるうちに2人の純粋さに胸を打たれます。
「交換日記」なんていう読んでいるこっちが気恥ずかしくなるくらい、初々しすぎる交際をするシュウジとちせ、そんな2人が「戦争」というこれまで非日常だった世界に放り込まれ、さらにちせはその中心に近い位置に置かれてしまいます。何故ちせが選ばれたのか、どういう仕組みで人間を兵器化したのか、この戦争は一体誰が何の為に始めた戦争なのか、といった背景は一切説明されていません。主人公はシュウジの方なので、シュウジが分からない事は読者にも分からないようになっているようで、シュウジと同じ視点で物語の世界にいられます。わけの分からない不条理過ぎる運命、それ故にちせとシュウジの純愛に強く惹きつけられました。ちせとシュウジ、そして2人を取り巻く人々の心が不条理な戦争という極限状態を背景にリアルに浮き彫りにされていて、生きる事、誰かを愛する事、立ち向かう事、それぞれの必死な想いに胸を打たれます。綺麗事だけじゃなく、醜い嫉妬や怒りや自己中心的な思いなど、人々の生々しい感情がせめぎ合う様も惹き付けられました。
所々の戦争や性描写の生々しさとは対照的に、日常は淡々と進みます。兵器されたちせととそれに立ち向かうシュウジの不器用で拙い生き方は、思春期の純粋さと青臭さに溢れていて魅力的です。
特にちせが戦場で殺戮を繰り返しどんどん人としての機能を無くしていく中で、それでもシュウジの彼女でいたいと願った彼女の強く純粋な想いに涙が溢れました。「世界の切り札」だといわれ望まない戦いを強いられる兵器であり思春期の女の子であり、何よりもシュウジの彼女であるちせ。そして兵器と化したちせに怯え、苦しむちせを支える難しさに悩みながらも必死にちせを愛し守ろうとするシュウジ。終わらない戦争の絶望感と止まらないちせの崩壊が苦しくて、「僕達は恋してく、生きていく」何度も出てくるこの台詞がとても切なくてその度に泣かされました。

突飛な設定や謎が謎のまま終わる点など読み手を選ぶ作品ですが、設定を追及するよりも2人の必死に生きて恋する姿を感じられればどっぷりとハマる作品だと思います。
"The last love song on this little planet."この英題が作品の魅力を表していると思います。この作品は「love song」なのです。


最終兵器彼女 (1) (ビッグコミックス)

最終兵器彼女 (1) (ビッグコミックス)

  • 作者: 高橋 しん
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2000/05
  • メディア: コミック



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