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小説『ミシン』 嶽本野ばら [小説]

『下妻物語』の原作者、嶽本野ばらさんの作品です。刊行は2000年10月。
表題作『ミシン』の他に『世界の終わりという名の雑貨店』の2つの短編が収録されています。
後者は映画化もされた作品です。

『ミシン』
現代を嫌い大正時代に憧れを抱く少女は、カリスマ的な人気を誇るボーカリスト・ミシンに恋をした。
ミシンが属するバンドのギタリスト募集を知った彼女は、他人のデモテープを送って一次審査を通過する。ギターは弾けず内向的で容姿も冴えない、あるのはミシンへの一途な思いだけ。そんな彼女を気に入ったミシンは独断で彼女をバンドに入れてしまう。生き辛い現代を疎む2人は共感を重ねて惹かれ合っていくが……。

『世界の終わりという名の雑貨店』
ひなびた雑居ビルの一角で、一人の青年が経営する「世界の終わり」と名付けた雑貨屋に一人の少女がやってくる。顔に大きな痣を持ち自分に自信が無い彼女は、雑貨店を気に入り度々訪れるようになる。互いに理解し合い惹かれあう2人。やがて青年は内気で儚げな少女を世間から守りたいと願い、少女を連れ出し津和野への逃避行を決行するが―

どちらの作品にも感受性が強すぎたり精神が弱すぎたりして現代社会で生き辛く居場所の無い人々が主要な登場人物です。『ミシン』では女性同士の友情以上恋愛未満な危うい心の交流、『世界の―』では男女の脆く切ない恋愛が描かれています。
耽美でゴシックな文体や雰囲気が独特で読む人を選ぶ作者だと感じました。
『ミシン』の方は展開が都合良過ぎて、また主人公達の他人を見下した考えとグロテスクなまでの自己陶酔に「勝手にやってろ」と思ってしまいました。
逆に『世界の―』の方には強く惹かれました。顔の大きな痣が「自分は顔だけでなく全てが醜い」というコンプレックスとなり、それ故に自分を抑制し殻に閉じ込めてしまった弱さを持った少女。そんな彼女が初めて人を好きになって、喜びと共に新たな不安が生まれてしまう様がもどかしくて、そんな彼女を守ろうとした青年の行動や言葉が切なくて、2人の純粋さが痛いくらい胸に突き刺さってきます。お互いに名前も連絡先も知らないまま、あるのは一途な愛情だけ。長く自分を閉ざし続けた彼女は恋の喜びを感じた自分を受け入れられず不安や自己嫌悪を抱き、逃避行を自ら終わらせてしまいます。そんな彼女の弱さと、彼女の弱さをただ弾圧した周りの大人に苛立ちと悲しさを感じました。
逃避行の後病院に入った彼女。彼女の母に救いを求められ2人は秘かに会っていましたが、彼女の弱さを憎み青年を彼女の苦しみの元凶だと決め付けた彼女の父によって決定的に引き裂かれてしまいます。やがて彼女はたった一人で遠い世界へ―。やりきれない悲しさで胸が痛みました。
2人は出会わなければ良かったのかもしれないけれど、出会わなければ人生に意味を見出せなったのだとも思います。つかの間でも恋の喜びを知った彼女は幸せを感じたのだと思いたいです。そうでなければ青年があまりにも報われないです。

純粋すぎる故に残酷な結末を迎えざるを得ない、そんな美しくも悲しいお話でした。こんな愛もあるのかなと思います。


ミシン

ミシン

  • 作者: 嶽本 野ばら
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2000/10
  • メディア: 単行本



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コメント 6

駅馬車

あらすじだけ見ると、ミシンの方が惹かれる感じがするけど、世界の終わり...の方がお勧めみたいですね(^^)

津和野への逃避行というのはちょっと興味があります(^^)
なぜ津和野なのか、という点に。

私の新婚旅行先に「ランズエンド」って場所がありました。
「地の終わり」ですね(^^)
by 駅馬車 (2009-01-18 20:35) 

リュカ

そうですね、Amazonのレビューなどでも『世界の―』の方が高い評価を得てますね。独特な世界観に「どっちも駄目」って人もいますが^^;

津和野を選んだ理由や、そこで交わされた言葉なども非現実的なまでに純粋で惹かれました^^

「ランズエンド」、イギリスの岬でしたっけ?
地の終わり、見てみたいです^^
by リュカ (2009-01-18 22:19) 

froro

この青い本、私も持っています。
世界の終わり〜 が好きです
最後の方の、今日、雪が降っていると云うくだりから
こうかつと臆病の二股……でしたっけ、
心に残っています

ミシンは 続編もあるみたいですね、未読ですが

お邪魔しました☆彡


by froro (2009-01-19 22:01) 

リュカ

>froroさん
『世界の終わり―』いいですよね^^
「ねぇ、君。雪が降っていますよ。」辺りでうるうるしました。
『ミシン』続編があるんですか?知らなかったです。
あの終わり方からどうやって続くのか見てみたいです。
by リュカ (2009-01-20 00:57) 

あさくらとうき

ミシンの続編は『カサコ』という作品で、クライマックスの事件の後をそのまま引き継いだ作品です。
ちなみに『世界の終わり』にも『ツインズ』という続編がありますが、描写が重くて非常に疲れます。映画も見ましたが原作ファンにはおすすめできないB級映画で、個人的にはとてもスキです。w

by あさくらとうき (2009-01-24 01:27) 

リュカ

>あさくらとうきさん
ようこそいらっしゃいました♪
『ミシン』のクライマックスがそのまま続けられているんですね。あの2人はどうも苦手です^^;
『ツインズ』序盤だけ立ち読みしました。描写が重くて買うの止めてしまいましたが、機会があれば読んでみたいです。映画の評判はイマイチのようですが、かえって興味が湧きます^^
by リュカ (2009-01-25 17:41) 

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