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小説『あたしの嫌いな私の声』 成井豊 [小説]

先日観に行ったキャラメルボックスの舞台『嵐になるまで待って』の原作小説です。発行は'91年。4度目の'08の上演に伴い復刊されました。脚本・演出を手掛ける成井さんが「舞台化できない、小説でしかできない事を書こう。」という思いで書かれたものです。その後、周囲の熱い声により舞台化が実現しています。お芝居では再現不可能な箇所や、その他何箇所か舞台とは異なるシーンがあり、舞台を観た後で読むと新たな発見があります。

声優志望の君原ユーリはアニメのオーディションに見事合格する。共演者との顔合わせの場で、共演者の三谷菜穂子が主題歌を歌うという映画の記者会見をテレビから見ていたユーリは、映画の音楽を担当するという指揮者の波多野の姿を見る。ユーリの声と波多野の声が似ていると言う一同。記者会見は、俳優の高杉が波多野に絡み緊迫していた。退席する波多野に尚も絡む高杉。そして波多野の姉・雪絵を侮辱する発言をした高杉に対し、波多野は冷静に言い放った。「君とは二度と会いたくない。」その時ユーリには波多野のもう一つの声が聞こえる。「死んでしまえ。」と言う声が。
翌日、元家庭教師の幸吉に連れられて訪れたクラシックコンサートで、ユーリはコンサートの指揮をした波多野と対面する。怯えて逃げ出してしまったユーリの元へ、波多野から電話がかかってくる。「くじらのキーホルダーを拾ったから取りに来てほしい」と。それは秘かに想いを寄せる幸吉に貰ったものだった。ユーリが自分に怯える理由を察した波多野は、ユーリの幸吉への想いとコンプレックスである声を突いて言い放つ。「君が声を出さなければ、彼は君を愛してくれる。」その直後、ユーリの声は失われる。幸吉に助けを求め、ユーリは精神科医の広瀬教授の元を訪れる。そして目にした「高杉が自殺した」というニュース。ユーリの声は戻るのか。波多野のもう一つの声とは何なのか。

舞台と小説で大きく違うのは、波多野の少年時代のエピソードが詳しく描かれている所です。子どもの頃から、他人の本音が2つ目の声として聞こえた波多野。更に、あんな人間が実の父親だったら心が歪んでしまうのも無理はないと思います。酒、暴力、そして雪絵にあんな……おぞましくてとても書けません。私が波多野の立場だったら、同じ行動を取っているかもしれません。
耳の聞こえない雪絵と2人だけで生きていこうという波多野の決意は悲壮なものに感じました。2つ目の声を自在に操れるようになった波多野は、自分達を傷つける者を排除して生きていきます。雪絵を守る、それだけが波多野の生きる力だったのでしょう。悲しいまでに純粋で強すぎる想い、そして壮絶なクライマックスに涙しました。

私が一番感情移入したのは同性のユーリではなく、波多野でした。


あたしの嫌いな私の声

あたしの嫌いな私の声

  • 作者: 成井 豊
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2008/07
  • メディア: 単行本



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