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小説『夜のピクニック』 恩田陸 [小説]

2005年の本屋大賞を受賞し、翌年映画化もされた作品です。

全校生徒が夜を徹して80kmの道のりをひたすら歩く、北高の伝統行事「歩行祭」。3年間わだかまっていた想いを清算すべく、甲田貴子はある賭けを胸に秘め当日を迎えた。それは互いに強く意識しながらも、その境遇から避け合っていた西脇融に声をかける事。非日常的な状況の中、思い出が蘇り、広がる景色に感動する。数々の噂話に、交錯する想い、思わぬ闖入者、積み重なっていく疲労。遠いアメリカの地から貴子を想う親友・杏奈が、貴子の悩みが解決するようにと施した「おまじない」。そして真夜中のパーティで少しずつ変わっていく心。高校生活最後の歩行祭、貴子の賭けの行方は……。

読んでいて自分の高校時代を思い出しました。友情、恋愛への憧れ、妙な正義感を持ったり大人ぶったりうじうじ悩んだり、「あぁ、このくらいの年頃ってこんなんだったなぁ」と懐かしく感じます。
印象に残ったのは、融の親友・忍が貴子に言った「君らは引き算の優しさを持ってる」という言葉です。何かを贈ったり何かしてあげたり、他人に対してアクションを起こす「足し算の優しさ」は、自己満足でしかなかったりかえって相手を傷付ける事もありえます。でも、貴子や融が持っていると言われた「引き算の優しさ」は何もしないでいる大人の優しさであって、本当に他人の事を思いやり、他人も自分も大事に想う気持ちからくるものだと思います。言われた当人に自覚は無いようですが、だからこそ持ち得る優しさなんだろうなと思いました。
大きな事件も無く、様々な想いを巡らせながら高校生の少年少女達がただひたすら歩いている、それがどうしてこんなにも惹き付けられる物語になっているのか? それは、昼間には自分の内に封じ込めてしまう登場人物達の心の動きを、夜の闇がストレートに浮かび上がらせてくれるから、そしてそこにある彼らの優しさや友情、或いは怒りや苛立ちを自分の事の様に懐かしく感じ、大人と子どもの間で不安定に揺れながらも輝いていたあの頃を思い出させてくれるからではないかと思います。

ページをめくり「歩行際」の終わりに近付いてしまうのがとても惜しく感じます。「永遠の青春小説」、表紙裏の言葉に深く共感しました。何度でも読み返し、貴子達と一緒に「歩行際」を歩きたいと思わせてくれます。


夜のピクニック (新潮文庫)

夜のピクニック (新潮文庫)

  • 作者: 恩田 陸
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/09
  • メディア: 文庫



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